先輩選手の話を聞いて学んだ若手時代
渡辺:自分の守備の技術を、若い外野手に伝授することはありますか?
岡田:聞かれれば教えますよ。守備に関してこういうプレーをしたいんですけど、どうしたらいいですか? って質問があれば答えますけどね。聞かれないと答えないです。
その選手がどういう感覚で野球に取り組んでいるのか分からないですし、僕がああしろ、こうしろって言える立場ではないので、自分から言うことはないです。
渡辺:聞いてくる選手も多いですか?
岡田:他球団の選手からは、よく聞かれますね。まとまった話はしないですけど、一言、二言はアドバイスすることもあります。
渡辺:逆に岡田選手が若い頃は、いろんな選手に話を聞きに行ったりはしたのですか?
岡田:先輩には、ものすごく聞いてきましたね。ファーム(二軍)の時は、いまコーチをされている大塚明さん。あとは、早川大輔さんや、南竜介さんにもいろんなことを教わりました。一軍に上がってからは、サブローさん(編集部注:大村三郎選手)によくアドバイスをもらいましたね。
渡辺:昔に比べてそういう選手間のやりとりが減って来た、みたいな変化はありますか?
岡田:減ってきたと思います。今の若手はライバル心がすごく強いので、なかなか聞いてこないですね。寂しい部分もあるんですけど、それぞれの選手の考え方があると思うので。
渡辺:僕が広告の世界に入って17年経つのですが、僕が広告の世界に入った頃はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4つが主な媒体で、ほとんどがその中で完結していた。今はネットが一番力を持っていて、お金も情報もそっちに流れるようになった。僕がずっと担当してきた千葉ロッテの「挑発ポスター」も、ネットでどう拡散していくかというのが前提になってきて。ネットがメインになったことで、個人主義になり、僕らが自分のノウハウを下の世代へ伝える機会が減ってきたんですよね。
そうなると、脈々と受け継がれていた徹夜をして叩きこむ「職人気質」みたいな部分がどんどん希薄になって、若い人から広告づくりについて聞かれることがなくなってきたんです。
しかも、広告は体力的にもきつい業種なので、どんどん人が流出していく。続けることはすごく大事ですが、少なくとも広告の世界はそれが難しくなってきているし、日本全体がそうなっているんじゃないかって感じているんですね。
そんな中でずーっと同じことを脈々と続けている人の中にある、魂や意志みたいなものを伺おうというのがこの連載の趣旨なんです。岡田選手にもそのあたりの話を伺いたいのですが、岡田選手が野球を始められたのって…?
岡田:小学1年生です。
渡辺:そこから、野球一筋ですよね。
岡田:はい。
渡辺:どうして、野球を続けてこられたんですか?
岡田:好きだからです。その気持ちは年々、強くなってる気がしますね。
渡辺:なぜですか?
岡田:以前よりも試合に出るチャンスが限られている中で、若手に気持ちで負けたくないからです。
一年でも長く続けていく
渡辺:これから先の具体的な目標はありますか?
岡田:やはり、一年でも長く続けていくこと。そのために、怪我をしないことですね。
渡辺:怪我ってある程度、不可抗力なところもありますよね。
岡田:難しいですよね。でも、怪我を回避するのもプロ野球選手だと思うんです。代わりの選手なんて、いくらでもいますもん。万全な状態でいないと、すぐに取って代わられてしまいますから。
渡辺:生まれ変わったとしても、やっぱりプロ野球選手を目指しますか?
岡田:そうですね。でも、生まれ変わったらパワーヒッターになりたいです(笑)。
試合前の独特の緊張感の中、穏やかに語ってくださった岡田選手。けれど、その言葉はきわめて明確でブレがない。自分のビジョンに対する覚悟と意志を強く感じました。月並みな言い方ではありますが、野球少年のように目をキラキラさせながら、熱くお話しされる姿が印象的でした。
「休みの日でも、野球のことばかり考えてしまう」「一年でも長くプロで野球を続けるために、自分の強みを徹底的に極める」「そうやって武器を磨くことで、自分の存在価値が生まれ、一軍のベンチに入り続けることができると思うんです」
印象的だった言葉はどれも、プロ野球に限ったことではないように思えました。僕たち広告の仕事とも重なる部分はきわめて大きい。しかし、はたして僕らに岡田選手のような強い覚悟があるでしょうか。人には絶対負けないと、胸を張って言えるものはなんだろう?太くて強い言葉を書くことか…そのための努力を惜しまぬことか…いいえ、少なくとも今の僕には、何もかもが足りません。
対談終了後、試合を観戦して帰りました。岡田選手は7回裏の守備から登場。センターフライを難なく処理する姿が、いつも以上に頼もしく見えました。
《非進化論的メモ》
- 自分の武器を見つけ出し、それを徹底的に極める。
- 「極める」とは、人一倍練習すること。
- いろんな練習を取り入れながら、それを実戦に生かしていく。
- 自信を培うには、練習。それしかない。
- 続ける原動力は、「好きだから」というシンプルで純粋な思い。