空間として本を売る場所は、もっとたくさんあって良いはず
──そもそも、なぜ「ことりつぎ」のサービスをスタートさせようと考えたのでしょうか。
「本を売るお店」をもっと増やしていきたいと思ったんです。構造的な話で言えば、最終的に本を売って商売をする本屋が弱っていくと、新しい本がつくれなくなってしまいます。あまり言語化されていないかもしれませんが、本屋には2種類あって、本を売って商売をするパターンと、本を活用して商売をするパターンとがあります。
本を売って商売するというのは、文字通り本そのものを売ることで売上を立てている本屋で、ナショナルチェーンや独立系書店など、いわゆるこれまでの本屋です。一方で、本を活用して商売するとは、たとえばイベントなどを開催して、コミュニティをつくることでマネタイズしている本屋です。
本を売って商売することと、本を活用して商売することは、実はまったく違う仕事であり、最近はここが曖昧になってきています。ただ、僕は出版人で、本をつくることが出自にあって、単純に本が売れないと困ると考えているのです。
「ことりつぎ」の構想ということで言えば、僕はかもめブックスという本屋を運営しているのですが、2014年11月に開店して、その日の晩にお酒を飲みながら思いつきました。新しい本屋を開店した次の日に、「でも本屋に来ない人に、本は売れないな…」ということに思い至ってしまったんです。ただ、本屋のスタッフとして働くのも初めての経験だったので、具体的にどうすればいいのかわからなかった。そんなときに、具体的なアイデアを考えるきっかけになったのが、ロードバイクに乗って来店されたお客さんでした。その方は、ツール・ド・フランスに関する本を探していて、たまたまその本がうちにあり、とても喜ばれていたんですね。
そのお客さんと話をして思ったのは、その本は、僕たちにとっては本なんですけど、自転車に乗る人にとっては「自転車の関連グッズ」であることでした。自転車の“ツール”として、自転車の本がほしいと思っていて、でも本は本屋にしか売っていないわけです。自転車が好きな人は、本屋よりも自転車屋に行くことのほうが多いですよね。もし自転車屋さんに本が置いてあれば、お客さんは自分の生活圏内で本を買うことができる。それで、本は本屋にとらわれることなく、場所を選ばずに売ることができると思ったんです。
また、レコードショップを経営している人が、どうしても本を並べたいけど仕入先がないと。だからAmazonで自分で仕入れて、1000円で買った本を1000円で売っているという現象もあります。もちろん儲けはゼロ。商売としては成り立っていないわけですが、本をインテリアではなく、売り物として置きたいという需要は、多いのかもしれないと気付かされました。
空間として、本が売れる場所はもっとたくさんある。ただ流通構造上、新規で本を仕入れるのは難しい。であるならば、流通構造そのものを変えなければいけないのかもしれないと考えたんです。