期間中の動員数は約1万1000人。ブランドマーケターを中心に、クリエイティブエージェンシー、メディアエージェンシー、デジタルエージェンシー、メディアカンパニー、 テクノロジストなど、さまざまな立場のキーマンが一堂に会し、グローバル/アジアパシフィックエリア共通の課題や、先進的な取り組みを共有した。
ここでは、キャンベルのソーシャル&デジタルマーケティング統括者による「Perpetual Relevance(永続する関係性)」をテーマとした講演のレポートを、登壇者への個別インタビューの内容と合わせて紹介する。
デジタルマーケターは、ブランド再生の請負人
長年にわたり、デジタル領域を含むマーケティング業務に関わってきたUmang Shah氏。現在は、アンディ・ウォーホルも描いたスープ缶でおなじみ、150年の歴史を持つ食品会社のキャンベルで、ソーシャル&デジタルマーケティ ングを統括している。
キャンベルのようなビッグブランドにおけるデジタルマーケターの役割とは 「テクノロジーの力を活用してイノベーションを起こし、『企業がもう一度、消費者にとって意味のある会社になること』 を手助けすること」だとShah氏。同氏はこれまで、マイクロソフト、ウォールマートといったさまざまな業種業態の企業でマーケティングに携わり、ブランドを再生させてきた。
Shah氏は、ブランドが消費者にとって「Stay relevant(関係性、意義のある状態)」であり続けるための原則を提示した。
(1)Hard decisions(難しい決断):過去の成功体験に安閑としてはいけない。物事が軌道に乗っているときこそ、難しい決断をすべき。英レストラン誌が選ぶ「世界のベスト・レストラン50」で過去5年間に第1位を4度も獲得したデンマークのレストラン 「noma(ノーマ)」は、顧客に持続的に受け入れられる店となるべく、本店を閉店。シェフがスタッフ全員を引き連れ、東京に期間限定の出張レストランを出店している。
(2)Stay fearless(恐れない): 慣例にないことを実行するときに、恐れたり、躊躇したりしないこと。
(3) Audience above all(消費者起点): 成功のカギは、大衆(消費者)にある。消費者の置かれている状況をよく理解し、その価値観やニーズに応える。キャンベ ルの取り組み事例として、ゲイのカップルとその息子の食卓を通じて、家族像の多様性を描いたCM「Your Father」と、ユーザーごとにパーソナライズされたコンテンツが表示されるレシピサイト「Campbell’s Kitchen」を紹介。消費者一人ひとりにフィットした体験を提供するには、消費者に寄り添うことが不可欠だ。
(4)Brand above product(製品を超えるブランド): 製品訴求よりブランド訴求。商品そのものにフォーカスし、機能説明を重視するマイクロソフト と、ブランドにフォーカスし、単なる製品表示を超えて「大好きな音楽をどこへでも持ち歩けるイメージ」を伝えるアッ プルを比較すると、戦略の違いがよくわかる。
マーケターが実践すべき5つのこと
そして、これらの原則を踏まえ、マーケターが実践すべき5つのことを紹介し た。
(1)vote with your money (必要な投資をする): 適切なプロジェク トは、費用面を含めサポートするべき。 例えばキャンベルでは、他の多くのプロ ジェクトを取りやめて、Amazonの人工知能スピーカー「Amazon Echo」を 使って消費者にレシピアイデアを届けるプロジェクトに投資を集中させた。その結果、他のどこよりも早く「Amazon Echo」活用ブランドとして実績をつくることができたし、「良い企画であれば、適切な予算をつける。それによってイノ ベーションを牽引し、消費者にとって意味のある企業を目指していく」という メッセージを社内に発信することができた。
(2)force failure(強制的に失敗する): キャンベルでは、部門間アイデアを共有・連携する場として「マーケティ ングイノベーションラボ」を設け、常時 5つほどのプロジェクトを走らせているが、その多くは強制的に失敗させる。失敗することで、「十分な努力をしていないこと」がわかり、それがさらなる改善や、新しいアイデアにつながる。
(3) play the user card(ユーザーのカード を使う=消費者の利益を代弁する): どんな部門に所属し、どんな役職に就いて いたとしても、消費者視点を意識するこ と。企業としての持続性は、消費者のニーズに見合ったものを生み出すことで しか担保できない。
(4)get out of the way(ときには一歩譲る): 企業が、何で も自分たちが主体になろうとするのは良くない。例えばコカ・コーラが大好きな2人の消費者が、コーラ好きが集まるコ ミュニティをつくったとき、コカ・コーラ社は自らコントロールしようとせず、予算をつけてコミュニティを支持する姿勢をとった。この判断は、ソーシャルスペースにおけるコカ・コーラのプレゼンスを維持・向上することにつながった。
(5)change the vanacular(「成功」「失敗」の意味を変える): 「Google Glass」 は失敗だった──これが一般的な評価だが、グーグルにとっては最も成功したプロジェ クトの一つだという。Google Glassの技術は、いまやスマートフォンに適用されており、Google Glassを開発したからこそ、いまのグーグルの技術力がある。