ブランド力を高めるための宣伝部門の改革
—世の中の変化に対応するために、実行されている対策はありますか。
菅野:当社では、車種別のブランディングに加え、“日産の顔”になるイメージもお客さまに持ってもらえるような、企業としてのブランディング活動も強化しようと考えました。そこで行ったのが、宣伝組織の統合です。具体的には、マス広告及び展示イベントを担当している部署と、デジタル及び販促を担当している部署の2つを統合させました。この宣伝組織内にはクリエイティブチームもありますが、現在はひとつの製作チームで担当する車種のすべてのコンテンツをつくる体制に変えています。
先ほどお話をしたように、お客さまがディーラーに足を運ぶ回数が減っている中で、「日産」という企業ブランドの構築も重要になってきます。新しいブランドをつくりだす活動の先駆けとして、2015年8月より矢沢永吉さんを起用した新しいコミュニケーションを展開しています。当社の何を誇るべきかを徹底的に掘り起こした結果、技術力ではないかという考えに行きつきました。そして、日産の技術がお客さまにワクワク感を提供することと、常に新しい技術を追求し、先陣を切って進む力を表現するため、「“やっちゃえ”NISSAN」キャンペーンを行いました。これはお客さまに“日産ブランド”を信じていただくための施策であると同時に、ディーラーに来ていただくという目的もありました。これまでの施策が車種ごとに最適化したマーケティング活動や、コミュニケーションだったことを考えると、このキャンペーンは大きな転換であったといえます。今後は、ブランドコミュニケーションと個別の車種のマーケティングのバランスを取ることが大きな課題になると感じています。
小和田:当社が今年からスタートしたのが、「モノ軸」から「コト・ヒト軸」へのシフトです。具体的には、お客さま目線で情報を伝えるため、開発の初期段階で商品の価値をストーリー化しようという取り組みを行いました。そのストーリーを基に商品のネーミングやコピー、商品デザイン、パッケージ、広告、店頭ツール、ウェブに至るまで、すべてを連動させた統合コミュニケーションを実現させました。
また、メディア戦略や、メディアごとのクリエイティブに関しても、ストーリー開発によって目的の明確化をしています。その結果、「お客さまが本当に買ってくれているのか?」「ファンになってくれたのか?」という大きな目的に向かってPDCAを回す体制が取れるようになってきました。
最適な宣伝効果を考えるには全媒体統一の基準が必要
—今後、消費者のデジタル化に対応してコンテンツのつくり分けや効果測定を測る上で、どのようなことが大切になってくるとお考えですか。
菅野:マスとデジタルのあらゆるタッチポイントを一つの部署で見ることができるようになったものの、未だに大きなメディアであるテレビから発想しがちです。効果測定についてもテレビに比べ、他のメディアの方が測定結果を強く要求されるというのが現状です。今後はあらゆるメディアに関して効果測定を行い、全体の視点で見ることが重要であると考えます。
まだ試行錯誤の段階ですが、当社ではブランドとしての一貫性を保ちつつ、カスタマージャーニーを俯瞰的に見て、メディアごとの体験をいかにシームレスにつないでいけるか考えているところです。
小和田:デジタルは様々なトライ&エラーを検証するツールとして非常に有用です。今までは担当者の経験則で出稿し、効果についてもあまり問われてこなかった広告についても、その効果が可視化できるようになりました。今後はブランドによって最適な宣伝効果を考えるために、全媒体を通しての統一基準のようなものが必要になってくると思います。