“編集者不在”のメディア・プラットフォームの行方

短期的には“質”を担保する機能、
長期的には育成機能の不全がデメリット

編集者不在にはデメリットもあります。短期的な問題は記事や制作物の“質”を担保する機能がないこと。例えば、ワイドショーに取り上げられる芸能ニュースなど、公共の利益という観点からは価値が低いコンテンツでも、注目を集め、経済的なリターンにつながります。この点は、ネットニュース編集者である中川淳一郎氏が、『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)で指摘する通りです。

こうした点にはメディア・プラットフォームの運営側も気づいています。Yahoo!ニュース個人は1カ月、1年単位で書き手を表彰し賞金を出す制度を設けました。記事の内容を評価することで“良い記事”を書くインセンティブを書き手に与えているのです。そうした中、2015年に年間表彰を受けたのは、学校の組体操の危険性を指摘した名古屋大学准教授の内田良氏の記事でした。

それでは、表彰制度のようなインセンティブを設ければ、編集者不在のメディア・プラットフォームの課題はクリアされるのでしょうか。問題は、そう簡単ではありません。筆者が感じている一番の課題は、長期的なものです。その一つは、著者やクリエイターの育成機能です。

Yahoo!ニュース個人でもnoteでも、著名人が書いていることが注目されます。ここで大切なのは、著名な書き手やクリエイターは、自分ひとりだけで、今の技能と地位を築くことができたのかという視点です。中には編集者によって育成された人もいるでしょう。

政治、経済、社会、海外、スポーツなど、各分野の専門家や有識者が個人として意見や提案を寄稿する「Yahoo!ニュース 個人」。

編集者は、あるときは書き手を励まし、あるときは取材のやり直しを指示し、またあるときは著者がそれまで考えなかった、新しい分野に取り組むことをアドバイスします。思い入れが強すぎて多くの人に伝わらない原稿を、客観的な視点から修正することもあるでしょう。

もともとセンスと能力に恵まれた一部の人を除き、多くの書き手は、このようなやり取りを編集者としながら、“書くことで食っていく”ことができるようになっていくのです。既存のメディア・プラットフォームは、このような著者・クリエイター育成機能を持っていないことが大きな課題と言えます。

そして同時に指摘したいのが、リーガル・リスクの問題です。真に公共性の高い社会問題を提起する際、それを書かれることで不利益を受ける側から訴訟を起こされたり、脅しを受けたりする可能性があります。自らを報道機関と定義するメディアは、こうしたリスクへの対処を業務に組み込んできました。

「多くのメディアが紙からWebへとシフトするなか、“編集”の役割は変わるのか?」など、続きは、『編集会議』2016年春号をご覧ください。

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治部 れんげ  RengeJibu
ジャーナリスト/昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員

1997年一橋大学法学部卒業、同年、日経BP社入社。経済誌編集部で記者・編集者を経験。2006~2007年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年春からフリー。「Yahoo!ニュース個人」「日経DUAL 」「マイナビニュース」「東洋経済オンライン」などで連載などを執筆。

 

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