【前回コラム】「宣伝部はいかにデジタル化するか ~その1~」はこちら
マーケティングダッシュボードを構築し、リアルタイム運用を行う。
「宣伝部はいかにデジタル化するか」の二つめは、自社ブランド及び競合ブランドのKPIをリアルタイムで捕捉しつつ、運用もリアルタイムで行うことにチャレンジすることである。このリアルタイムで自社・競合ブランドの状況を把握することは極めて重要かつ不可欠な施策になる。
宣伝部は事業部から広告予算を預かってキャンペーンほかマーケティング施策を打つ部署になっている場合が多いが、その目標は予算を使い切ることではなく、キャンペーンによる目標KPIを達成することである。
また、そのためには金融におけるファンドマネージャーのように、「運用」によって預かった予算をマーケティング効果をとして最大化することだ。その際、株式運用のような「損切り」を含むリアルタイム運用が必要になる。
筆者は、基本的に「事前にベストなプランはない」という立場だ。キャンペーンを始めてからの市場環境の変化や消費者の反応、競合ブランドの出方など変数は多い。それを自社のキャンペーンプランだけで最適化することはそもそも無理である。予算の使い方を最適にするには「運用でベストにする」という考え方しかない。
そもそも、予算がプランを決めてしまっているのが、実態だろう。よくテレビとデジタルの予算配分の議論を聞く。従来、テレビのプランは予算によって決まっていたところが大きいが、デジタルは予算がプランを決めない。たとえば、1億円をテレビ8000万円、デジタル2000万円と配分したとして、テレビはおそらく8000万円分のGRPを買い付けるということだろうから、ほぼ予算がプランを決めてしまう。しかし、デジタルの2000万円には無数のプランが想定できる。むしろ達成目標がKPIで設定できなければ実効プランはできないと言ってもいい。
従来の「予算化し、事前のプランを忠実に執行し、終わってから効果があったか調査する」という行動様式は実にナンセンスである。終わってから調査したところで、もう終わっているので何の手も打てない。そうではなく、キャンペーン以前から自社ブランド、競合ブランドのKPIをリアルタイムで把握しながら、キャンペーンでそのKPIが推移しているかもまたリアルタイムで把握し、随時「打ち手」を行使するのが、これからのキャンペーン運営と言っていい。
たとえば、テレビスポットによるターゲットリーチをアクチュアルで把握しながら、目標達成が危うければ、入札運用型のデジタル動画広告を足りていない層に配信するというようなことである。
テレビスポットの出稿量に関しても、大量に出せばいいというものではなく、効果はどこかで頭打ちになる。それでも出稿する意味は、競合ブランドが出稿してくるからであって、サウンドのシェアで勝たなければならない。マーケティングはある意味で「戦い」である。「戦い」である以上、孫子の兵法どおり「敵を知り、己を知れば百戦あやうからず」なのだ。
マーケティングも情報戦である。自分だけの活動で最適解が出るということはなく、同じ出稿量でも競合の出稿の山にぶつけていくのか、競合の谷間に乗じていくのか、という戦略が必要であり、そのためにもリアルタイムダッシュボードを常備せねばなるまい。
筆者は、当面、こうした「打ち手」をとるための(そのタイミングや量・手法)ダッシュボードとROIを最適化するためのものの、2系統が存在し、ひとつに収斂していくものと考えている。
ROI分析は「ブランディング」を、マーケティングの時間軸を長く設定したときのROI最大化と認識して、ベースライン(短期のプロモーション施策を行わなくても売れる量)としての「ブランド力」を高く維持するために、中長期にベストなROIを達成するための戦略的なアロケーションモデルと、戦術的な「運用」によるベストなKPI達成が両立するようになると思う。