『週刊文春』編集長が語る仕事論「“真面目な人”は編集者に向いていない」

新谷編集長の入社時のエピソード

佐々木:新谷さんは就職活動の際、テレビ局を志望していて、「大人のバラエティー番組」をつくりたかったとか。

新谷:そうなんですよ。よく調べていただいていますね(笑)。

佐々木:テレビはお好きなんですか。

新谷:今はあんまり見ないですね。つまんなくなっちゃいましたよね、今のテレビは。就職活動の時は、実はテレビ局は最終面接で落ちてしまい、その後に別の出版社を受けてもダメで、最後に残ったのが文藝春秋だったんです。それまで面接でもバカ正直に受け答えをしていたので、もう少し真面目にやろうと、エントリーシート、当時は入社志望書というんですけど、その「よく読む雑誌」の欄に『週刊文春』とちゃんと書きまして。それでもう、自信満々で受けに行ったわけです。

いざ面接となったら、面接官に早速、「キミ、『週刊文春』読んでいるの?」と聞かれ、「書いてある通り、もちろん読んでいますよ!」と答えたのですが、「『週刊文春』の『週刊』は『週間』じゃないよ」と言われまして(笑)。これはマズイなと思い、「すみません、本当は読んでいません!」と正直に答えると、「正直でよろしい!」みたいな話になって、受かりました(笑)。あぁ、文藝春秋は懐の深い会社なんだなと。

佐々木:(笑)。

新谷:入社後も、やりたい放題やってきました。テレビ局に入ってやりたいと思っていたことも、いろいろ実現できたような気がします。新入社員のときはスポーツ総合誌の『Sports Graphic Number』編集部に入ったんですが、印象深かった企画に「ホームラン特集」があります。当時は、近鉄バファローズにラルフ・ブライアントという、すごいホームランバッターがいました。

そのブライアントを中心に、ホームランバッターを列伝のように並べ、「ホームラン主義」という特集企画を部内の編集会議で出したら、通ったんですね。当時の私は入社3年目で、当然ながら編集長からは「デスクの下で一緒につくってくれ」と言われたんですが、「俺の企画ですし、俺につくらせてください!」と言いまして。今考えれば、よくそんな生意気なことを言うなと思うんですけど。

不可能を可能にするのが、編集者の仕事

新谷:ところが、その編集長も懐が深くて、「それもそうだな」と理解してくれたんです。入社3年目の私と、2年目の後輩、新人を加えた3人で、ホームラン特集をつくりました。それはもう、好き放題にやれて楽しかったですね。カメラマンは、後に宇多田ヒカルのアルバム「First Love」のジャケット撮影を担当する久家靖秀さん。彼はインパクトのある写真を撮るのが得意だったので声をかけたのですが、どういう写真がいいかと相談したら、「やっぱりブライアントは過剰なイメージがあるから、バズーカ砲じゃないか!」と言いだしまして。

佐々木:バズーカ砲ですか?(笑)

新谷:「ブライアントにバズーカを打たせたら面白いと思うんだ!」と言われ、私も「いいですね!やりましょう!」と、すっかり2人で盛り上がってしまいましてですね。当時、日本テレビで放送していた『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で「早朝バズーカ」という、ターゲットが寝ている早朝にいきなりバズーカ砲を打つというドッキリ企画があったんです。そのバズーカを使えないかと考え、日テレに電話をかけて「あのバズーカ砲はどこに行けばあるんですか?」と聞いたんです。

すると、埼玉県の田舎にある、趣味でバズーカ砲をつくっている鉄工所を紹介してもらえました。すぐに埼玉県のその鉄工所まで行って、バズーカ砲を何丁か借りました。それでスタジオにブライアントを呼び、ユニフォームを着てもらって「このバズーカ砲を打ってくれ」と頼んだら、ブライアントも大喜びして。バズーカ砲をバンッと打ったところを撮影したら、カッコいい写真になりました。本当に楽しかったですよ。

佐々木:まさに、テレビをつくっているような感じですね。

新谷:こんな話が役に立つかわからないですが(笑)、言いたいのは、自分の発想や面白がる気持ちに縛りをかけるべきではないということ。最近はマニュアルやルールとか、上司の理解が得られないなどと、つまらない理由で面白いことが潰されやすくなっています。そうではなく、不可能を可能にするのが私たち編集者の仕事です。つくっている編集者自身が、面白がっていないとダメですよ。

佐々木:なるほど。

新谷:私の場合は、好き放題に大暴れして、最後は粛清されるという、その繰り返しです(笑)。自分の人生、自分の仕事なんだから、面白いと思うことを思いっきりやる。やっぱり“やらされ仕事”ほど、つまらないことはないですから。


 

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