【前回コラム】「磯部光毅×野添剛士「戦略の『型』を知っているから、プランニングが自由になる」」はこちら
「広告部」から「マーケティングコミュニケーション部」に名称変更した理由
寺田:『手書きの戦略論』は、広告コミュニケーションに関わる全体をカバーし、かみ砕いてとても分かり易く書かれており、広い視野と経験を基に時間と多大な力をかけられたものだと感じました。特に、我々事業会社の広告担当としては、広告の歴史的な流れやカンヌのトレンドなどは参考になりました。
磯部:本書は、経営戦略分野のミンツバーグの『戦略サファリ』や三谷宏治さんの『経営戦略全史』などを意識しながらも、バズワードが次々に生まれ複雑化しているコミュニケーションの戦略論の全体を俯瞰することを目指しました。
寺田:私が在籍する森永乳業の「マーケティングコミュニケーション部」は、今年6月にそれまでの広告部から組織名称を変更しました。2月にデジタル専門部門を立ち上げたものの組織的には変わっていないのですが、あえて名前を変えることにこだわりました。この名称には、従来の広告の概念にとらわれず、あらゆる接点でのお客様とのコミュニケーションを重視していくという意図があります。磯部さんの『手書きの戦略論』にも、「広告戦略ではなく、企業・ブランドとお客様とのあらゆる接点での双方向のやりとりを重視したコミュニケーション戦略を考えなければいけない」と書いてありますよね。その視点が今の私自身の課題意識にぴったりとはまり、興味深く読ませていただきました。
磯部:僕は1997年に博報堂に入社して、様々な戦略の変遷を見てきました。若手の中には、業務の細分化の弊害で、一部の理論や最新理論しか知らず、プランニングが狭くなっている人もいてもったいないと感じることがあります。そういう人に、視野を広げるために本書を活用してほしいと思っています。ただ、本書はエージェンシーサイドからの視点でまとめているので、広告主の立場から見てどう感じるか、お伺いしたいなと思うのですが。
寺田:弊社では、大きく分けると「企業ブランド」と「商品ブランド」の2つのプランニングをしています。商品ブランドは、お客様との関係の観点から大きく、①市場導入期 ②成長(キャズム乗越え)期 ③(真の)ブランディング期 ④ロングセラー活性化期の4つのステージで捉え、それぞれのステージの状況を踏まえた戦略を組立てています。
磯部さんの「7つの戦略」をこれらに当てはめて考えてみると、市場導入期は情緒価値による「ポジショニング」や「ブランドイメージ論」、次の成長期は物性価値による「ポジショニング」や「ブランドエクイティ論」、ブランディング期では「ブランドアイデンティティ論」や「アカウントプランニング(インサイト)」、ロングセラー活性化期になると「ブランドエクスペリエンス論」「エンゲージメント」やデジタルを通じた「ダイレクト」が重要になってくるように思います。どのステージでも全ての要素が含まれていますが、フォーカスする観点がステージが進むにつれて変わっており、この5つの戦略がきれいに積み重なっていくと感じました。
一方、「IMC」は現在の基本の考え方、「クチコミ」はSNS時代の共通手段で全ステージに関係するので、「7つ」というよりも「5つ+2つ」という感覚が近いです。今後は、これらの戦略を組み合わせて、どのようにブランドの戦略をつくっていくか、成功パターンのようなものが考えられれば面白いと思います。
磯部光毅著
『手書きの戦略論 「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』
コミュニケーション戦略を「人を動かす心理工学」と捉え、併存するさまざまな戦略・手法を7つ(ポジショニング論、ブランド論、アカウントプランニング論、ダイレクト論、IMC論、エンゲージメント論、クチコミ論)に整理し、それぞれの歴史的変遷や、プランニングの方法を解説する。