人の行動が“見える”ことと、人の気持ちが“動かせる”ことは違う
寺田:先ほど「How to deliver」の話がありましたが、我々の仕事は、広告からコミュニケーションの領域へ、そしてマーケティングへと領域が拡大し、業務も拡大しています。私が所属する部署も、私が着任した約8年前に比べると販促と広告の垣根がなくなりました。私の部署ではパッケージデザインも行っていますし、現在は売り場での施策も含めたプラニングも増えてきました。いろいろな施策の境界が曖昧になってきているので、社内の組織での線引きが機能しなくなっているように思います。
磯部:お客様に接する部分はすべてコミュニケーションと捉えると、かなり拡大しますね。今はどの企業でも宣伝部の存在意義が問われているというか、事業部がマーケティングコミュニケーションを含めて全て見る会社が増えていますね。
寺田:コミュニケーションだけで出せる結果は多くはありません。最近は私の部署でも商品開発や販売促進に近い話が増えてきて、マーケティングも広告も全体で一緒に考えましょうというケースが多くなりました。そういう意味では、私は宣伝担当者がこれまで別であった部署を結び付ける“社内のコーディネーター”のような位置づけになることが理想と考えています。
磯部:確かに私の仕事の半分は商品開発段階から入らせて頂くものになってきていて、商品のネーミングやパッケージに関わることはますます増えています。また、寺田さんが「マスと一対一をつなぐポイント」と指摘したデジタルとデータの活用に関していうと、それによってお客さんの行動把握がますます進むと考えていますが、“行動を知る”と“行動をつくる”は意味が全く異なることは忘れてはいけないと思います。僕たちマーケターやコミュニケーションプランナーと呼ばれる人たちは、「行動が見えるから、どんどん広告を当てればいい」と考えるのではなく、「どう届ければ人の気持ちがポジティブに動くのか」を考えたいですよね。行動をつくることに重点を置いて考えるべき、という議論も本書で投げかけたいと思っていました。
寺田:本の最後に書かれていた「人間を見つめることで、道は拓ける」という言葉に特に共感を覚えました。私が部内でよく言うのは、新しいものを勉強するのと同時に、汗を流さなければいけないということ。効率は大事ですが、“効率最優先”の姿勢で仕事をすれば、必ずそれはお客さまに伝わってしまうでしょう。楽に流されることなく、汗をかき続けている会社が、その姿勢がお客様にも伝わり、結局うまくいっているのだと思います。
磯部:今後デジタル、データの活用は当然進んでいくので、いかにそのスピードに負けないように、人の気持ちを動かす洞察やアイデアを持てるか、が我々の今後のチャレンジだと思います。
寺田:ヒューマンタッチをマーケティングの中にビルトインして、企業を1つの人格に見せるということは、今後の大きなテーマですね。
磯部光毅著
『手書きの戦略論 「人を動かす」7つのコミュニケーション戦略』
コミュニケーション戦略を「人を動かす心理工学」と捉え、併存するさまざまな戦略・手法を7つ(ポジショニング論、ブランド論、アカウントプランニング論、ダイレクト論、IMC論、エンゲージメント論、クチコミ論)に整理し、それぞれの歴史的変遷や、プランニングの方法を解説する。