「消費者同士のコミュニケーション」の間に入れるかがカギ
アメリカのコカ・コーラ社が実施した、とても美しいキャンペーンを例にとって、さらに詳しく説明します。とある大学の新入学生向けオリエンテーションの日、キャンパスにはいたるところに、コカ・コーラ製品が無料で飲める冷蔵庫が設置されています。しかし、中に入っているコカ・コーラ製品は、無料ではありますが、“タダでは”飲むことができません。特殊なキャップがついていて、誰かもう一人仲間を見つけ、キャップとキャップとをつけ合わせてボトルをひねらないと、空けられない仕組みになっているのです。
新入学生向けのオリエンテーションの日ですから、キャンパスにいるのは、ほとんどが知らない人同士です。つまり、ここでコカ・コーラは、知らない人に話しかける「いいわけ」、友達づくりのきっかけを消費者に提供しているのです。
消費者と消費者の間に入って、消費者同士のコミュニケーションを促進する、というのは、まさにこのことです。上記のケースは、コミュニケーションをキックオフする、という意味での「促進」でしたが、すでに円滑なコミュニケーションをより盛り上げる、という促進もあるでしょうし、停滞しているコミュニケーションを再度活性化するのも同様です。
LINEのスタンプもカタリストの好例です。出会い系アプリである「Tinder(ティンダー)」などのマッチングサービスも、メディアというよりカタリストでしょう。また、例えば動画など伝統的にメディアとして使われてきたフォーマットのコンテンツでも、それを消費者が遊び感覚で加工するなどして、あるいは単純に話のネタとして友人同士で盛り上がるだけでも、カタリストとしての機能を果たします。企業のエイプリルフール企画が消費者に支持され、定着したのは、この「話のネタになって、コミュニケーションの触媒になる」機能ゆえでしょう。
その意味で、すべてのコンテンツは、メディアにもカタリストにもなりえます。オウンド・カタリスト(上記コカ・コーラの例)、ペイド・カタリスト(LINEスタンプなど)、アーンド・カタリスト(企業が意図せず、消費者が勝手に見つけてくれた、ブランドに関する話のネタ)、という発想も成り立ちます。
現代における消費者の時間争奪戦の勝者はだれか?
つまり、今後マーケターはコンテンツを考えるとき、メディアとして制作するのかカタリストとして制作するのか、という判断をすることになります。メディアの利点は、直接消費者にアプローチできるのでリーチがある程度計算でき、かつ伝えたいメッセージが確実ではないにせよ、能動的に伝えられる点です。
一方でカタリストの場合、それを触媒としてコミュニケーションが発生するかどうかは消費者頼みなので、リーチはまったく保証がありません。かつ、伝えたいメッセージをコントロールすることは不可能に近く、入り込むコミュニケーションの文脈を意識することで、そのブランドと一緒にする「体験」をデザインできるにすぎません。
それでもやはりカタリストが重要なのは、どのような形であれ、今日メディアの重要性が全般的に薄れ、消費者同士のコミュニケーションの重要性が反比例するように高まっているためです。消費者の時間争奪戦の勝者は、それ自体コミュニケーションの要素がほとんどであるソーシャルメディアから、さらにコミュニケーションに特化したメッセージングサービスに急速にシフトしています。消費者同士のコミュニケーションに入り込まなくては、企業はいかようにもマーケティングができない時代が近づいています。
さて、スターバックスの話で始まる本稿は、ドイツに向かう飛行機の中で書かれていますが、こういう孤独なシチュエーションでスターバックスが恋しくなるのは、そこで交わした家族や友人とのコミュニケーションを思い出しているからなのかもしれません。彼らの店舗もまた、単に商品やサービスを届ける場所であるだけではなく、消費者同士のコミュニケーションのカタリストとして機能しています。そう考えると、ショート、トール、グランデというドリンクのサイズ展開も、ちょっと話したい、たくさん話したい、じっくり話したい、というコミュニケーションニーズに対応しているようにも思えてきます。