今後、求められる広告とは何か?
求められるのは、モバイルのスクリーンにネイティブ、そしてメディアの表現形式にネイティブであるような広告だ。この表現形式の面で代表的なネイティブ広告が「インフィード型広告」である(これらネイティブ広告の各種形式と機能を分類整理し、ガイドラインを制定する取り組みを、米国ではIABが、日本ではJIAAが行っている)。
だが、モバイルに最適化された表示形式をもつ広告であっても、広告からの着地面(LP)などへとユーザーが遷移する際に、体験の劣化やユーザーの離脱を引き起こしやすい。せっかくユーザーが関心を示しても、画面描画に数十秒も待たされたり、LPがモバイルに最適化されていないといった事例は、枚挙に暇がない。
インフィード型広告の普及は、結果として広告コンテンツそれ自体、さらにはLPまでも、プラットフォームへとホスティングするものへと発展していくことになろう。外部サイトへの遷移が不要で表示が高速なように。
ところで、今後のコンテンツに、動画は大きな比重を占めることになる。したがって、動画をめぐっても、「体験ファースト」なアプローチの広告が台頭することは間違いない。
現在は、数十秒のテレビ CMに範型を求めた挿入型広告以外に、有力なフォーマットが存在しないが、注目すべき動きも生じている。
たとえば、「プロダクトプレイスメント」と呼ばれる手法だ。
むろん、大手映画などで従来から用いられよく知られた手法だ。しかし、これがソーシャルメディア系の動画に使われ始めたらどうだろう?
たとえば、家事全般に強いパーソナリティMartha Stewart氏は、Facebook Liveを用いたレシピ番組の提供に際して、スポンサー製品を利用したり、画面内に配置するといったアプローチで収益を得る意向という(「Martha Stewart Wants a Steady Revenue Stream From Facebook Live」)。
最近、米Huluの広告担当幹部も、同社の新たな広告商品として、プロダクトプレイスメント型商品を発表し、広告主らに対して、「われわれのクリエイティブプロセスの一部に参加できるようにする」と発言している(「Ads Evolve Into New Forms as Media Landscape Shifts」)。コンテンツづくりから広告主の要望を反映するとの意味だ。
従来は、大型の映画制作などで用いられてきた手法が、今後は機動的に随所で行われる可能性が見えてくる。
プロダクトプレイスメント手法とは異なるが、「The Guardian」がBOSHやAmazonをスポンサーとして、過去の未解決殺人事件の謎を、本格的な調査報道手法で解き明かすシリーズが登場した(「How to solve a murder」)。コンテンツの企画段階から、広告主らの企画面への関与をともなう新しいアプローチを示唆する。
まず、最初にフォーマットがネイティブであること。次に、クリエイティブが魅力的であること。これによって、ようやく「次にやってくる広告」への道筋が見えてくる。
藤村厚夫
スマートニュース 執行役員 メディア事業開発担当
90年代を、アスキー(当時)で書籍および雑誌編集者、および日本アイ・ビー・エムでコラボレーションソフトウェアのマーケティング責任者として過ごす。
2000年に技術者向けオンラインメディア「@IT」を立ち上げるべく、アットマーク・アイティを創業。2005年に合併を通じてアイティメディアの代表取締役会長として、2000年代をデジタルメディアの経営者として過ごす。
2011年に同社退任以後は、モバイルテクノロジーを軸とするデジタルメディア基盤技術と新たなメディアビジネスのあり方を模索中。2013年より現職にて「SmartNews(スマートニュース)」のメディア事業開発を担当。