従来型メディアの前提が崩れていく間、日本のメディア界は何をしていたのか?
吉良:今の佐々木さんの話と僕が本で書いていることが近く、すごく面白いですね。Yahoo!が一人勝ちしている時に、IT革命が起きて、スティーブ・ジョブズが2007年にiPhoneをつくった。エコポイントが開始されて日本でハードディスクドライブが普及したあたりです。テレビは録画が当たり前になって、広告が見られなくなった時代。まさに佐々木さんはその時に、東洋経済オンラインを始めているんですよね。
佐々木:時期は偶然だと思うのですが、吉良さんがまさしくおっしゃったように、Yahoo! とGoogleとApple、この三社の影響が大きかったということですよね。
Yahoo!によって読者がお金を出して記事を買ってもらう購読モデルが崩れ、Googleのアドセンスによって雑誌メディアのターゲティング的な広告の強みが薄れてしまった。そして、AppleのiPhoneによって、新聞、雑誌といった紙でコンテンツを読むという習慣がどんどん薄れていった。やはりYahoo!、Google、Apple、からなる三銃士の登場がすべてを変えたのではないでしょうか。本の話も含めると、アマゾンも加えた四銃士といえますね。
メディア鎖国をやめて、開国しないと日本に変化は訪れない
吉良:テレビにしても出版社にしても、本当にきちんとデジタルに取り組んだ後に、ようやく現実的な「放送の良さ」、「書籍の良さ」といったハードウェアの良さが分かるはずなのに、皆なぜしないんだろう? そこを目指さないで、自分の今の良さだけを語ろうとするからうまくいかないんだと思う。
佐々木:話は飛びますが、海外留学と似ているかもしれませんね。明治時代の志士たちも同じかもしれないですけれど、世界を見て見聞を広げてきた人ほど日本の良さが分かる。世界を知れば知るほど、日本の良さを見つけてプロデュースするのがうまくなるのだと思うのです。
そういった意味で、メディア関係者にとってのウェブやデジタルというのは、海外留学みたいなものだと思うのです。デジタルの世界に3年くらい留学してみると、逆に紙などのアナログの良さがわかってきます。
私なんかは、偉そうにデジタルを語っていますが、根っこはアナログ人間です。東洋経済オンライン、NewsPicksの編集長を合計3年半やってみて、新聞、雑誌、本といった伝統的なメディアの持つ良さがよくわかりました。デジタルを知らないと話になりませんが、その一方で、デジタルだけでもダメだと思います。
吉良:こういったことは、日本中の旧態依然としたメディアの人達に伝えたいですよね。ともかく一回留学しましょうって。日本はこれから人口が減るわけで、そこを穴埋めするためのグローバル化は避けられない。NewsPicksではそういったグローバル化はすでに考えていますか?
佐々木:もちろん考えていますね。たとえば我々の先行サービスである企業情報プラットフォームの「SPEEDA(スピーダ)」というサービスがありますが、こちらはすでに英語対応していてグローバル展開しています。支社もシンガポールや香港や上海やスリランカに置いています。
SPEEDAはわれわれの創業ビジネスであり、企業の情報を包括的に調べられる、いわば、企業情報に特化したグーグルのようなサービスです。社名を入れて検索すると詳しい会社情報や財務、経営状況のほか、過去の関連ニュースや株価の推移をデータベースとして見たりダウンロードしたりができます。ですから、NewsPicksも早い時期に英語化して海外に出て行きたいとつねに思っています。
吉良:やっぱり、日本のニュースが世界に届かない限り、日本のことを世界の人は知らないのと同じですよね。日本のニュースは、まったく海外に放送されていないんだよね。NHKの国際放送だけじゃないかな。メディアだけ鎖国している状態ですね。
佐々木:本当におっしゃる通りですよね。たとえば、佐渡島庸平さん(コルク代表)や映画プロデューサーの川村元気さん(東宝プロデューサー)は私と同じ年齢です。
この30代後半あたりの世代から、メディアやコンテンツの業界において、デジタルもアナログも知る世代として、面白い人たちが生まれてきていると思います。このあたりの世代がいち早く日本で成功して、2020年よりも前に海外に出て、海外でも注目されるぐらいにならないと、日本のメディアはより衰退していってしまう。そんな危機感を最近とくに強く抱くようになりました。