「いきものがかり」の水野さんは「優秀なクリエイティブディレクター」である(ゲスト:水野良樹さん)【前編】

いきものがかかり最後の路上ライブの観客は1人だけ

水野:路上ライブのときは不思議で、お客さんの立ち位置や雰囲気を見て、その場で曲を決めるんですよ。もともと決まってなくて、ある程度やれる曲は決まってるじゃないですか。5、6曲のレパートリーがあるとしたら、お客さんが女子高生だけか、男性の会社員だけかで空気が違うので、その場で空気を読んで曲を決めるという。ある時期は、その勘が冴えわたって、3人とも別に言わなくてもこの空気だったら「次コレだよね」「うん」みたいな感じで。

権八:かっこいい!

水野:あれは不思議でしたけど、そういうのがありましたね。でも、ライブハウスに出るようになったら、その感覚がなくなり、路上ライブのお客さんが集まらなくなっていって。ライブハウスのお客さんは増えていくんだけど、路上ライブで全然集まらなくて、最後の路上ライブは1人しか集まりませんでした。

澤本:え、本当!? ライブハウスに出てるのに?

水野:最後の路上ライブは最後に女子高生が1人立ち止まってくれて、歌い出したら目の前で酔っ払いのおじさんが倒れて、頭をぶつけちゃって、近くの人が救急車を呼んで、ライブもそれで終わりという。

権八:悲しい(笑)。それが最後の。

中村:でも、確かに広告っぽいところがありますね。澤本さんがCDとおっしゃいましたが、たとえば屋外看板が振り向いてもらうためのものだとしたら、電車の中で見る中吊り広告は読むためのものじゃないですか。だから表現が違うんですよね。

澤本:そうだと思う。話をしていても、自分たちをどう見せようという気持ちがきちんとあるから。だから、セルフプロデュースをちゃんとしていると思うし。あと、僕らの仕事的に言うと、楽曲を書いてくださいとお願いすることがあるじゃないですか。そのときに僕は直接頼んだことはないけど、頼んだ人に聞くと、的確にコンテの内容や、だいたいこういう方向というのを慮って書いてきてくれるから、曲が当たっているんだって。それこそ飲料のときとポッキー的なときと違うし。あの曲はポッキーのために書いたんですか?

水野:『じょいふる』はそうですね。

権八:えっ、そうなの!? ショック。

澤本:だから『じょいふる』はポッキーがなければできなかった。そう考えるとすごいよね、この人。

権八:すごいし、この業界のどこかでそういう良いコラボレーションをやっている人がいると。名曲がそれで生まれていて、素晴らしいですよね。

澤本:僕ら企画する側からすると、水野くんはチームの一員になってくれてるわけですよ。セリフはだいたいこんな感じのニュアンスで、歌って踊ってほしいと言って、その部分はいきものさんに、曲と詞は水野さんにお願いしたいというときに、「この人がやりたいのはこういうものだな」と慮って書いてくれて、それがクリエイティブ作品になる。それはほぼこっちのやりたいこともわかってないとできないしね。たいしたもんだなと思う。

権八:サカナクションの山口さんもそんなことを言ってましたよね。いきなりバーッと仕上がってから渡されるのと、川上というか、まだコンセプトしか決まってないみたいなところから参加するのでは、山口さんは後者のほうがいいと。ゼロから関わりたいと。

水野:ゼロから関われるんだったら僕も関わりたいですね。どういう形で企画を考えるか僕は知らないんですけど、絵コンテができたり、こんな人が出てきますなど、いろいろなものを渡されて増えていくと、わりと本質が見えないというか。何が狙いなのか、何が目的なのかが見えなくなる可能性があって。

また、特に僕らの場合は間に人をたくさん挟むので、その間の人の思惑も入るじゃないですか。それは僕らを守るという意味でレコード会社が考えることもあるだろうし、広告の方がそれ以上は言わないほうがいいだろうと思うこともあるだろうし、別に悪いことじゃないと思いますが、ブレていくんですよ。

だから、もし可能であればゼロからやってくれたほうが絶対にブレないから。そうすると、こんなこともできるんじゃないですか、こんな曲もあるんじゃないですか、という提案もしやすいだろうなと思います。

権八:僕らもそれは理想的だと思いつつ、広告の場合はつくっていく過程でしょっちゅう変わるんですよ。それが申し訳ないというのもありませんか?

澤本:あるね。

中村:音楽プロデューサーを通すのはそういう理由が大きいんですかね? 政治的な要望で物事が変わったときにそのままお伝えすると・・・。

権八:モチベーションにも関わるしね。

澤本:まぁ、それだけではないだろうけど、ある種そういう役割、ショックアブソーバー的なものは担っているよね。

水野:僕はソングライターでは特殊なほうで、合わせていくことがそんなに苦じゃないというか。わりと積極的に行くほうだと思うんですけど、たぶん大方のソングライターは自分の作品に対して強い愛着があって、自分の表現ということを強く思っているので、そこで軸の部分がブレるような変更があると、どうしても精神的な反抗心みたいなものが出てくるのは理解できますね。

澤本:CMだけじゃなくて、NHKの『YELL』もそうですよね。あれは発注としては「合唱曲をつくってくれ」と言われたんですか?

水野:そうですね。あれは前年がアンジェラ・アキさんの『手紙~拝啓 十五の君へ~』という名曲で、バラードで大成功したから、「次はアップテンポでいきませんか?」と先方の担当者がおっしゃったんですね。「中学生の元気があふれる感じ」と言われて、アップテンポの曲をつくったんですけど、どうしても自分で納得いかなくて、アップテンポも聞かせながら、「やっぱりこういうバラードじゃないですかね?」と聞かせたところ、大きな心で捉えていただいて。「こっちがいいです」と『YELL』になったんです。

澤本:『YELL』は大名曲になったよね。合唱と言えば、中高生はみんなこれ歌ってるしさ。

権八:佐々木さんも歌ってるよね(笑)。

水野:佐々木さん会ってみたい(笑)。

澤本:佐々木さんはこの曲がしばらく合唱コンクールで流れたときにずっと歌ってましたよ。

水野:でも、怖い人なんですよね(笑)?

澤本:怖いですよ。ずっと歌うのも怖いですよ(笑)。

<次回へつづく>

構成・文 廣田喜昭

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