吉岡さんは歌を届けるために個性をあえて消して歌っている
水野:それが含まれている曲がみなさんの近くにいって、みなさんの気持ちと繋がることは政治的な影響力があることだと思うんです。だから、僕がやっていることは政治的なメッセージを入れないと言われがちだけど、実は政治的なことをやっているという認識のうえで意外と書いているなとは思ってます。
でも、これは難しい話で、歌っているのは吉岡だから。グループでやっているので、そこが難しいところで、僕は彼らとも考えが違うので、それがうまく遠くへ届いている理由になっているというか。僕1人でやったら、そうならないので。吉岡みたいな声でやるからこそ届くし、吉岡が自分のことを消して歌ってくれるからこそ届いているんだと思うんですね。
吉岡は実は個性豊かな女の子なんです。でも、自分の個性を消して、歌だけが届くように、という歌い方を彼女は努めて頑張ってやっているんですよ。
権八:へー、そうなんだ!
水野:それは大変きついことだと思います。それをわかったうえでやっているので、伝わっていると思うんですけど、ガラスの上で成り立っているんじゃないかなと。
澤本:吉岡さんが巫女役をやっているということだよね。
水野:そうですね。彼女は彼女なりにたぶん苦しんでいると思うんですよね。だって、自分で歌っているのに、自分のことじゃないって苦しいことだと思うんです。そういうことを僕が簡単に言っちゃうのもよくないと思うんですけど。
権八:確かに(笑)。
水野:吉岡も苦しいし、僕は僕で自分のことを自分で歌えないということも苦しいんですよ。自分が思っていることを全て出せないから。だって女の子だし。だから、お互いのジレンマがうまく重なるところというか。
澤本:それは面白いですね。確かにそうだ。歌っている人は詞を書いている人と性別も違うもんね。そりゃ違うわな。
水野:考えもたぶん全然違うし。山下なんて政治的な考えが全く違いますからね。どっちがどっちとはここでは言えないですけど(笑)、本当に違うから僕は山下の前では政治的な話をしないですもん。ぶつかっちゃうから。
権八:そうなんだ、面白い。ちなみに吉岡さんが個性を消しているというのはどういうことですか?
水野:テクニック的なことで言うと、こぶしを付けないとか。わかりやすい言い方をすると、モノマネ芸人さんがモノマネをしやすいようなものってあるじゃないですか。個性があって、癖があって、こういう箇所でこういう歌い方をすれば、その人っぽくなるもの。それを全部削いでいるんですよ。
ただ真っ直ぐにそのメロディをなぞって、でもそれだけでは作品にならないので、その中でたくさん工夫をしているんですけど、歌自体の物語がストレートに聞こえるということを彼女はすごく大事にしています。あとは歌い方もですね。表情を付けると、それが悪いわけじゃないですけど、たとえば矢沢永吉さんって矢沢永吉さんが歌わないとあの世界観にならないじゃないですか。
そういうものって難しいけど、そこを目指してはいないんですね。カラオケ屋で普通の主婦の方が歌っても良いものに聞こえるように、というところとちゃんと繋がるように。本当はそうならないんですけどね。
中村:すごいですね! はじめからそういうことを考えて設計していたんですか?
水野:いや、初めはそんなに考えてないです。たまたまそうなっていったんです。いろいろ考えていくうちにそうなっていって。それをガタガタしゃべるのが僕だけっていう。
一同:笑
権八:でも、そういうことを明文化できるのはいいことなんでしょうね。
澤本:ちゃんと論理としてね。
中村:そして、明文化と言えばですね、夏に出版を予定されていると。書籍がありまして、『いきものがたり』というものなんですが。
水野:急に宣伝ありがとうございます(笑)。
中村:これはどんな内容なんですか?
水野:10周年なので、何かいろいろやろうよというなかで、自分で勝手に企画して、ツイッターで今までのことを振り返るみたいなことをやりたいんだけど、どうかな?という感じではじめたんです。一番古いところでいうと、山下と小学校1年生で出会ったときから。
権八:初々しいね、それは(笑)。
水野:それからザーッとツイッターで書き続けていたところ、たまたま高校の先輩が小学館の編集者の方で「本にしませんか?」と言ってくれて。じゃあ本にしようと出ることになりました。たぶんメンバーは怒ってると思うんですけど(笑)。一応、僕がメンバーの1人として見てきた、あくまで僕が見てきたものを書いていて。要は、いきものがかかりの歴史を自分で書いてみたみたいな話ですね。
権八:さっき聞いたら、この『いきものがたり』はすごい分量ですよね。800ツイートぶん?
水野:そうなんですよ。800ツイートで加筆したんですよ。僕は初めてそういうのを書くので、ワードで書いたら文字数が17万字と出て。最初は12~13万字と言っていたのに、「17万字になっちゃった、ごめんなさい」と出版社に送ったら、「水野さん、これ組んでみたら28万字あります」と。
一同:笑
水野:マジっすかと。ちょっと値段高くしないとうちとしても難しいです、みたいな話になってしまって。
権八:すごいな! 28万字って何ページぐらい?
澤本:原稿用紙400時詰めで・・・。
中村:700枚!
澤本:長編だね、もう。
中村:京極夏彦みたいな(笑)。
澤本:京極夏彦かカラマーゾフ風(笑)。
水野:今メンバーに読んでもらっていて、もしかしたらここは事実と違うよ、こんなこと言ってないよみたいな。たぶん僕の記憶違いがあると思うので、それを直したりして、もしかしたら出版停止になるかもしれない(笑)。
権八:そんなに!? 結構電撃的な、衝撃的な内容なんですか?
水野:いえ、一応記憶通りに書いたつもりなんですけど、やっぱり僕が勝手に書いてるものなので、メンバー以外でも勝手に書いてるところもあるから、なるべく「第三者の目線で」じゃないですけど(笑)。
権八:今流行りのね、舛添さん的に言うと(笑)。