「東京グラフィティ」と「レトリバー」 ライフスタイルを提案する強さ
堀内:面白いチャレンジをする雑誌も、今では少なくなってきていますよね。ここ数年うちのクリエイターなんかも目をつけていて、見せ方などで話題になっている雑誌は「東京グラフィティ」でしょうか。
開くと分かるのですが、毎号、全体の構成と見せ方が一緒なんですね。たとえば、この映画と音楽がテーマの号。一般人もバンバン登場して、ホワイトボードに一言書いて写真を撮って正方形に加工、インスタグラムのように並べていたりします。ほか、カバンの中身を見せてもらう企画もあったりします。
吉良:写真はまるで学校の卒業アルバムみたいですね。
堀内:確かに。毎号必ず載っている人気のある企画のようです。このページでは、「夢はなんですか?」と聞いてホワイトボードに回答を書いてもらっています。写真の中にさりげなく有名人も混ざっていたりしますが、モデルのギャラも発生しないし、掲載された一般人はSNSで拡散してくれるので自然と販促にもなる。毎号1000人以上載っているようですね。
この雑誌のすごいところは、本誌だけではなくタイアップのついた広告版も数多く出版しているところです。たとえばこの青森グラフィティや、近畿大学と組んだ近大青春グラフィティとか。若い世代にリーチするような見せ方の工夫がよくできているんだと思います。
吉良:書店で販売できるほどのコンテンツ制作力がすごい。いわゆるカスタムパブリッシングということですね。
堀内:販売収入と制作協力金で成り立っているビジネスモデルです。
また、ほかの出版社でも、ライフスタイルを追求するような雑誌が増えてきました。たとえば犬のしつけや病気になったらどうする…という専門誌はいくつもありますが、「世田谷ライフ」を出している枻出版では「レトリバー」という雑誌。
吉良:え、レトリバーだけ?
堀内:そうです。しかも年4回刊行の定期刊行物です。
この雑誌は、犬のしつけだの病気だのの話がメインで載っているわけではないんです。レトリバーを飼う人が一緒に海岸を走る、レトリバーとサーフィンに行ったり、キャンプに行ったりする。という、レトリバーの飼い主のためのライフスタイル誌なんです。
大きな犬の飼い主が乗る車は、ステーションワゴンか、ピックアップトラックかですよね、そういったライフスタイルに合わせた車の広告が入ったりする。キャンプをするならキャンプ用品も必要だから、モンベルも愛犬とキャンプを楽しむための情報コンテンツを作って出稿するわけです。
雑誌メディアの可能性とコンテンツの未来
堀内:先日、ある出版社の方とお話ししたのですが、新しい雑誌の形として、記事のページと広告ページを分けて作るのではなくて、制作協力金をもらい、最後にクレジットが入るようにしたらどうだろう?という内容でした。今の段階ではステルスマーケティングの問題などがあって実現は難しいですが、方法としては可能性があるのではないかと思っています。
吉良:映画のような制作委員会方式はいいですね。Jリーグみたいに協賛金でこの雑誌は成り立っております、って面白い。
堀内:僕は、「広告会社の出版局」という立場から見た出版メディアの未来に希望を持っています。その寄るべきところは、出版社が持つコンテンツ制作力です。ただ単に綺麗に誌面がつくれるということだけではなくて、ライフスタイルやトレンド、生き方を提案できるということも含めてです。メディアとコンテンツと広告の関係も変化していかなければなりません。広告ありきのコンテンツではなく、広告主とメディア、そして読者のためにも、もっと優良なコンテンツが必要なのではないでしょうか。
堀内善太(ほりうち・ぜんた)
国際基督教大学教養学部卒業後1985年電通に入社。雑誌局にて出版社担当、広告主プランニング担当を長く務める。2003年グループ内にファッションクライアント専業広告会社ザ・ゴールを起案、創業し初代社長を務める。2010年より電通にて営業局次長、局長。2015年から現職。
吉良俊彦(きら・としひこ)
上智大学法学部卒業後、電通に入社。 クリエーティブ局、営業局を経て、1985年より雑誌局へ。様々なラグジュアリーブランドをはじめ、各社のメディア戦略およびプロジェクト、スポーツ・文化イベントの企画プロデュースを行う。2004年、電通退社。ターゲットメディアソリューション設立。2011年、マンガデザイナーズラボ設立。
マンガデザイン®プロデューサーとして、「マンガデザイン®」による広告企画の総合プロデュースを手がけ、日本の文化であるマンガをコミュニケーションソリューションとしてビジネスに活用している。大阪芸術大学客員教授、日本女子大学講師。
『広告0円』 吉良俊彦・著
新たなメディアとして台頭してきたウェブ&モバイルに加え、OOH、そしてエンターテインメントとしてのスポーツ&ライブカルチャーもまた強力なメディアだと位置づけ、これまでの4媒体(TV、新聞、雑誌、ラジオ)との親和性やこれからのメディアミックスの方向性を考察。「広告0円」と提唱する真意、広告における新たなメディアの在り方、これからの可能性を探る。広告・コンテンツの今を理解するための最良の書。
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