ネットの発展が洋楽に与えた影響
藤崎:洋楽の売上について教えてください。昔と比べて、いかがでしょうか?
佐藤:洋楽のシェアが音楽市場全体のなかで20%位になっており、80年代や90年代と比べると低下傾向に見えてしまうかもしれません。ただし、それはあくまでもCDのマーケットをみた場合です。日本の場合は、デジタルとCDの合算のマーケットシェアが出せないため数字で表すことが難しいのですが、最近のデジタルでの音楽販売やストーリミングの売上をみると、洋楽は上昇傾向ですよ。
例えば、Apple Musicをみると、上位のチャートはJ Soul Brothersや西野カナ以外は、ジャスティン・ビーバーやアリアナ・グランデが並んでいます。トップ50のうち約40曲は洋楽なため、人気が低下していることはなくて、むしろ存在感があります。
売上に関していえば、洋楽はCDではなく、デジタルでの購入比率がすごく高くなっています。日本では、どうしても音楽産業の売上としてCDの販売実績を見る傾向にあるので見え方としては小さく見えてしまいますが、デジタルの売上は伸びています。また、ひとたび曲が流行れば、テイラー・スウィフト然り、アリアナ・グランデ然り、ガガ然り、邦楽と同じくらい聴かれるということもアンケートからわかっています。洋楽はニッチなジャンルではないのです。
藤崎:音楽配信での購買を加えると、人気が衰えたわけではないんですね。
佐藤:洋楽をメインに聴いている人の音楽購入の仕方や、聴き方が変わってきているんだと思います。
邦楽の場合は、CDを買えば会えたり、サイン会があったり、付加価値で勝負する手法ですよね。洋楽ももちろん時々やりますけど、ビジネスの方法が少し違う気がします。
藤崎:そうしたインターネットを使って音楽を聴く洋楽ファンと、アンバサダーとの親和性はいかがでしょうか。
佐藤:親和性はとても良いですよね。洋楽が好きで外に発信する人たちは、もともと海外文化が好きだからではないでしょうか。つまり、普段からネットで海外の情報を得たり、ネットフリックスを見たり、デジタルプラットフォームを使っていたり、海外情報に敏感な人たちが多いと思います。
藤崎:たしか、アンバサダープログラムの第1弾のイベントは2013年の12月のアリアナ・グランデでしたね。
佐藤:最初に行ったショーケースライブですね。渋谷で行いましたが、あのときは第1弾ということもあり、単にレポーターとして音楽ファンを招待して「感想を拡散してください」といったかたちでした。今から思えば、他の施策と連動させるなど、もっとプレミアムな価値を高める方法があったかもしれませんね。なんといってもアリアナ・グランデですから、貴重なショーケースだったと思います。
藤崎:感慨深いと思います。あの時のアンバサダープログラムの募集が、今の大成功に結びつき、同じスピードでアリアナさんも大スターになっていったということですよね。
佐藤:本当にすごいスピードですよね。すそ野を広げるという意味では、アンバサダープログラムの最初の入口として、プロモーション色を出すより、ああいうおおらかなスタートはすごく良かったなと思います。
そもそも洋楽アンバサダーという打ち出しは、会社のブランディングにもなっている気がします。例えば、アンバサダーミーティングでは、アンバサダーの方に、このオフィスに来てもらいますが、自分が好きなアーティストの会社と関わる機会は、普通はなかなかないと思います。彼らにそういう機会を提供していることで自社のブランディングにもなっていると思います。
藤崎:ユニバーサルさんの活動は、アンバサダーを通じて日本の洋楽文化を豊かにしようという文化活動にも感じられました。今日は貴重なお話ありがとうございました。
今回のポイント
- 「洋楽」カテゴリーそのものを大きくしたい
- 「ストリートプロモーション」の次を探して
- 重要なのは「どこまでリアルな声なのか」
- ファンとの関係づくりが最大の財産
- ネットの発展が洋楽に与えた影響
今回のまとめ
音楽は、「便利」「使いやすい」「おトク」などといった機能価値とは無縁の趣味性の高い分野のため、プロモーションが難しいと思います。音楽を知るきっかけも、その音楽を好きになる理由も人さまざまで、まさに理屈では人が動かない世界だと思います。しかし、趣味性の高い分野だからでしょうか、いかに音楽好きと寄り添うか、音楽業界は時代の流れを他の業界以上に敏感に受け入れて、柔軟に対応してきたように思います。例えば、「ストリートプロモーション」は、当時の最先端のプロモーションだったはずです。
そして今は、「感度の高いファッションリーダーの発言」よりも、「圧倒的に音楽業界と直接関係のない一般の人たちの声の方が重要」とのこと。「どこまでリアルな声なのか」という3つのお話しも奥が深いものでした。
今は、普通の人の発言が重視される時代であり、まさに「顧客の時代」なんですね。そして洋楽ファンと一緒に「洋楽」分野そのものを大きくする戦略はスケールが大きいですが、実際のところ現実的な戦略です。日本の洋楽文化を担う、素晴らしい話を聞くことができました。