【前回】「Ingress、ポケモンGOの開発現場。Niantic川島優志さんに聞く。【前編】」はこちら
日本でも大人気のモバイルゲームIngress。また今や全世界で社会現象となっているポケモンGO。この二つのゲームを開発するのがサンフランシスコに居を構えるNiantic, Inc.です。前回から二週に渡り、このNiantic, Inc.で活躍するデザイナーの川島優志さんにお話を伺いました。
成長するための環境づくり
川島 高(以下、高):どうやって学び、成長していくのか。仕事をする上でだけではなく、人生を通しての大事なテーマです。僕は学ぶために、まず自分が身を置く環境を意識することが重要だと思っています。
人間の適応能力は、きっと自分たちが考えているよりも本能的に備わっていると思うんです。自分には場違いだと思えるような場所や環境でも、そこで1年位もまれているとある程度慣れてくる。知らないことが多ければ多いほど、逆に言えば吸収できることが多い訳で、そういう環境に進んで身を置くことで、ものすごい速さで成長できるような気がします。ドラクエで自分がレベル30の時に新しいモンスターを仲間にすると、そのモンスターのレベルって戦うたびにどんどん上がっていきますよね。もちろん成長スピードはだんだんと鈍化するし、それを極めるのはまた別の話ですが、そうやってレベル30の世界に放り込まれると、うまく周りにのっかって自分の経験値がどんどん増える。
川島 優志(以下、優志):自分が居心地のいい環境にいるのは快適だけど、そのぶん成長が無い。それはある意味で自分が成長したという証でもあるんだけど、でもそう感じ始めたら危険信号だよね。もしそうなったら、また自分を困難な状況に持っていく努力をすることがすごく大事だと思う。
僕もGoogleでの最後の1、2年はそういう感じだった。ある程度シニアのポジションになって、本社での勝手もわかってきた。そのままやっていこうと思えばやっていけたかもしれないけど、自分が成長するためには、そこから敢えて慣れていないこと、経験の無いことをやっていくことが大事だと思った。自分がビリっていう状況は辛いけど、そういった状況の方が周りに引っ張られて成長するし、そのぐらいのガッツが必要だよね。
それと自分が本当に尊敬できる人と仕事をするっていうのも大事だと思う。今僕が働いているNiantic, Inc.のCEOのジョン・ハンケは、昔Google Earthの元となったKeyholeという会社を立ち上げた人です。そんな偉い人なのにとてもフランク。大事な会議でもボロボロのポロシャツとスニーカーで現れたり、スーツケースでなくてリュックサックで出張に行く。それに正しいことをきちんとやろうとする人です。例えば短期的にはものすごくデメリットと思えることであっても、それが正しいことならそれをちゃんと実行しようとする。口で言うことは簡単なんだけど、実際にその決断を下すのってすごく難しい。ちょっとでも弱いと、「しょうがないか」って妥協しちゃう。でもきちんとそれを行動で示すのはリーダーとして正しいと思うし、すごく勉強になります。
もうひとつ、自分が欲しいもの、良いと思うものをきちんと作る人です。長いことやっていると段々と自分が作っているものがよくわからなくなってきちゃう。「仕事だから」って理由で、なんとなく作業としてこなしている状況ってよくあると思う。でもそうじゃなくて、自分の信念をブレずに続ける姿勢はそばで働いていて本当に勉強になる。
高:以前ジョン・ハンケ氏のプレゼンテーションを見ていてハッとしたことがあります。VR(Virtual Reality 仮想現実)とAR(Augmented Reality 拡張現実)についての質問に答えていたのですが、VRではなくてARにこだわる理由として、現実生活とより密接したプロダクトを作ることに自分は興味があり、ARが現実の世界との親和性がより高いからと強く力説していました。
今業界的には、ある意味では盲目的と思えるほどにVRに対する熱量が大きいです。どこを向いてもVRの話で持ちきりです。もちろんVRかARかの取捨選択という問題ではありません。ただそうした大きな流れに逆らうのってやっぱり勇気がいることです。それでも自分の信念にきちんと基づいて行動している姿勢にとても共感を覚えました。