【前回記事】「デジタル社会におけるメディアとコンテンツと広告の新しい関係とは。」はこちら
コラムでは、著者の吉良俊彦氏がインタビュアーとなり、それらの領域で最先端を行くビジネスパーソンが、今の世の中をどうとらえているのか、未来はどうなると考えているのかなどを合計四人のゲストから引き出します!
最終回・第4回のゲストは劇団四季の代表取締役社長、吉田智誉樹さんです。
吉良:著書の『広告0円』中で、「Web」「モバイル」「OOH(屋外広告)」「エンターテインメント&スポーツ・カルチャー」をいままでのマス4媒体に代わる新4媒体として提唱しました。エンターテインメントをメディアとして捉えているところに、びっくりしたという読者も多かったようです。でも僕にとっては必然でした。
マス4媒体のうち、テレビは東京キー局とローカル局、新聞社は中央紙と地方紙と呼びます。つまり、日本国内しか想定してないんです。「日本における中心が東京で、他は全部地方だ」という認識から抜けられないのだと思います。しかし、この古い認識はスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの登場によって完全に変化しました。Webとモバイルによってようやく「グローバル」という視点が生まれたんです。その視点でものごとを考えると、「ローカル」の重要性は一気に高まります。地方だけではなく、大阪や東京も「一つのローカル」という扱いになる。全地域で「ローカルエンターテイメント」を展開していくことが、非常に重要な時代になってきます。
吉田:この『広告0円』拝読いたしました。私は社長になる前、長く広報担当でしたので、その時の感覚が蘇ってきました。劇団四季を含め、舞台やライブエンターテイメントをよくご覧になっている吉良さんだからこそ、エンターテインメントの真の力を見抜いていらっしゃるなと思いました。
「グローバル」と「ローカル」の意識は劇団四季でも重要な視点です。私たちは主に、海外の翻訳ミュージカルを上演していますが、ヒット作品ならどんなものでも日本で上演するわけではありません。そのミュージカルに「国境を越える力があるかどうか」で判断します。
例えば『ハミルトン』という、2016年にトニー賞(アメリカで最も権威のある演劇・ミュージカルの賞)を獲った作品があります。チケットが来年まで取れないほどの人気で、アメリカの10ドル札になっているアレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いた作品です。ハミルトンは、アメリカでは建国の父のうちの一人とされ、合衆国憲法の起草者として有名です。私も昨年ニューヨークで観劇しましたが、舞台のクオリティは非常に高く、当然、四季が日本での公演を検討してもおかしくありません。しかし、極めてアメリカ的なハミルトンの物語を、日本のお客様が共感し、リアルに感じるのは大変難しいと思いました。
国境を越えてもヒットが見込める作品は、人間の普遍的なテーマを扱ったディズニーの『リトルマーメイド』であり、『アラジン』であり、『オペラ座の怪人』や『キャッツ』なのでしょう。劇団四季はグローバル企業ではありませんが、グローバルな視点で物事を見ている企業だと思っています。