エンターテインメントが提供する一期一会の影響力とその未来形。

出会った作品の印象は生涯続いていく

吉良:エンターテインメントやライブの素晴らしさは、観た時の思い出が永久に残ることだと考えています。

吉田:まさにその通りです。ただ、私たちにとって、怖いことでもあります。一期一会のお客様に、その作品が持っている感動をきちんとすべてお伝えできるかどうか。何度も来てくださる方も、もちろん大勢いらっしゃいます。ただ、同時に一度来ていただいて、終わってしまう方もいらっしゃるわけです。初めて観劇された方が「つまらなかった」と思ってしまったら、私たちにとってはその仕事は成功だとは言えません。

吉良:劇団四季で作品を観たから、今はミュージカルに関連する仕事に就いているという人も多いのではないでしょうか。こういった流れは、その国の文化を作る上で重要なことだと思っています。

吉田:ある日、出会った作品の印象が人生に影響し続けていくということはありますね。劇団四季には「こころの劇場」という事業があります。企業にご協賛をいただいて、小学校6年生の子供たちに無料でミュージカルを観てもらっています。全国各地で行っていて、北は北海道の利尻島、南は沖縄の石垣島でも公演があります。学校行事の一環で行なっているため、これが初めてのミュージカル体験だという子供がたくさんいます。

実は私自身も、最初に観たミュージカルは劇団四季の作品なんです。神奈川県民ホールで上演された『コーラスライン』でした。

吉良:その公演が、人生を変えたんですね。ご覧になったのは大学生の時ですか。

吉田:高校生の時です。演劇部でしたので舞台には興味がありました。その後、通っていた高校の芸術鑑賞会がたまたま劇団四季の公演だったこともあり、ミュージカルも好きになりました。

演劇部では部長だったので、この芸術鑑賞会の後、楽屋にお礼のご挨拶に伺いました。主役の部屋の前で待っていると、後ろから背の高い大きい男の人が来たんです。それが創立者の浅利慶太先生でした。「この人があの浅利さんか!」と思って挨拶をしようとしたのですが、スルーされ、あっという間に別の楽屋に入ってしまった(笑)。後々、ご本人にこのエピソードを話したのですが、「そんな忙しい時に、高校生の相手なんかしてられるか!」って笑われましたけどね。

吉良:役者に用があったのでしょう。

吉田:楽屋から大きな声が聞こえたので、おそらく芝居の出来に不満があり、指導のタイミングだったのかもしれません。そういうモードで入ってきたから、私など目に止まらなかったのでしょう。

自分の人生を振り返ると、浅利慶太という人間に大きく影響を受けています。今の仕事における自分の経験や知識は、ほとんど浅利先生を経由して私の身に入ってきていますから。これから浅利先生を知らない世代がどんどん劇団四季に入団してきます。その人たちに、いままでと同じようなマインドを持ってもらえるかがが重要な課題だと考えています。一期一会のエンターテインメント・コンテンツとして、来ていただいたお客様を必ず感動させなければなりません。そのためにも、ことあるごとに浅利イズムというか、浅利先生から教えてもらったことを後進に伝えていくことが大切だと考えています。

吉田智誉樹(よしだ・ちよき)

慶應義塾大学文学部卒業後、四季株式会社(劇団四季)に入社。主に営業、広報宣伝関連セクションを担当し、東京、札幌、名古屋、福岡各地にて勤務。2004 年執行役員広宣ネットグループ長、08年取締役広報宣伝担当に就任。2014年から現職。

 

吉良俊彦(きら・としひこ)

上智大学法学部卒業後、電通に入社。 クリエーティブ局、営業局を経て、1985年より雑誌局へ。様々なラグジュアリーブランドをはじめ、各社のメディア戦略およびプロジェクト、スポーツ・文化イベントの企画プロデュースを行う。2004年、電通退社。ターゲットメディアソリューション設立。2011年、マンガデザイナーズラボ設立。
マンガデザイン®プロデューサーとして、「マンガデザイン®」による広告企画の総合プロデュースを手がけ、日本の文化であるマンガをコミュニケーションソリューションとしてビジネスに活用している。大阪芸術大学客員教授、日本女子大学講師。

 

『広告0円』 吉良俊彦・著

新たなメディアとして台頭してきたウェブ&モバイルに加え、OOH、そしてエンターテインメントとしてのスポーツ&ライブカルチャーもまた強力なメディアだと位置づけ、これまでの4媒体(TV、新聞、雑誌、ラジオ)との親和性やこれからのメディアミックスの方向性を考察。「広告0円」と提唱する真意、広告における新たなメディアの在り方、これからの可能性を探る。広告・コンテンツの今を理解するための最良の書。
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