SNSを通じた「ファンの可視化」が報道にも影響
特に個人的に、小池陣営のSNSの活用から企業担当者の方々が参考にすべきと考えている点は、小池氏が積極的にSNSを通じて「ファンの可視化」を促していたところです。
例えば、先週金曜日に小池氏がツイッターに投稿していた画像がこちらです
【小池ゆりこフェス 最後の大演説会!】
選挙戦最終日、30日(土)19:30から最後の演説会を開催します。
池袋西口に緑のものを一点身につけてお集まりください!#CreateNewTokyo_Yuri #都民が決める #小池百合子 pic.twitter.com/cWlbNW1l0U— 小池百合子 (@ecoyuri) 2016年7月29日
こちらの投稿では、文中でも画像でも明確に支援者に「緑のものを一点、身につけてお集まりください」と呼びかけています。他の候補者が街頭演説の時間だけを告知していたり、自らへの支持を呼びかけたりしているのと、大きく異なるのがこの点です。
つまり、小池氏は自らをフォローしている支援者に対して話しかけるだけでなく、「緑のもの」を身に付けることで「支持者であることを可視化」することを促しているわけです。
通常の街頭演説では、たまたまそこを通りがかっただけの人も聴衆になることが多いため、必ずしも集まっている人が全員支援者とは限りません。先の参院選の際に、小泉進次郎氏が街頭演説のさなかに若者を選挙カーに呼び込んだ際、その中の一人が野党支持者であったことが後に判明して話題になったことが象徴的な事例といえるでしょう。
参考:小泉進次郎氏の呼びかけに自民選挙カーに上がった若者の1人は野党支持者だった
通常は街頭演説で大勢の人が集まっていても、その人たちが支持者なのか、たまたま通りがかった通行人なのか、ライバル候補者の支持者なのか判別する手段は、候補者にも周囲の支持者にもないわけです。
通常の組織戦では、ある程度支持者が動員されるそうですから、それを判別する必要がそもそもないのかもしれません。今回、小池氏は政党の支持を得られなかったこともあり、ゲリラ的にこの戦術を選ぶしかなかったという見方もあります。
ただ、少なくとも結果的に小池氏の街頭演説において、緑のものを手に振っている人は明確に小池氏の支持者であることが、小池氏にも周囲の支持者にも分かりやすくなるという効果が生まれました。さらに緑のものをもってきた支持者同士に一種の連帯感が生まれたはずですし、大勢の支持者が緑のものを手にしている姿は写真映えもします。
実際に、そのファンが可視化された街頭演説自体が、マスメディアにも「ゆりこグリーン現象」として連日取り上げられていました。仮に小池氏のSNS活用が直接的には影響力がなかったとしても、マスメディアや他の支持者に対して自らの支持者の熱量を可視化するための呼び水になった点だけで、十分に価値があったということが言えるわけです。
そういう意味で、小池氏のSNS活用はただ単に自らがフォロワーに情報発信するだけでなく、フォロワーである支持者に対して、自らが支持者であることを可視化し、発信することを促していたという点で、他の候補者と一線を画していたのは明らかでしょう。
もちろん、小池氏が最も都知事にふさわしい人物なのかどうかは、これから新しい都知事としてどういう都政をしていくか次第ですから、あくまでこれは選挙戦でのSNS活用だけの視点になります。
ただ、従来、米国では大統領選挙における新しいネットメディアの活用が、その後、企業に参考にされるというサイクルが明確に存在するのに対し、日本での選挙は企業にほとんど参考にされないというのが通常でした。それが今回の都知事選においては、少し印象が変わってきたように感じています。
アドタイコラム読者の方々も、政治に興味が無い方は少なくないかもしれませんが、今回の都知事戦は、ファンの可視化の仕方については企業のマーケティングにおいても参考になる点があるように思います。