テクノロジーは公共空間をどう変えるか
西牟田:公園などの公共空間をどう活用していけるか。規制を緩和する流れがあったり、パブリックの形もまた変わりつつあるようにも思えます。テクノロジーが関わることで、パブリックな空間はどう変わっていくと思いますか?
齋藤:昔、偉大な建築家の方が「街を歩く一番の楽しみは、角を曲がった時に美人がいるかどうかだ」と話していて印象的だったんですよ。今はまだ、テクノロジーのコミュニケーションレイヤーが、街の物理的なレイヤーと合っていないのですが、これから合致してくる。すると、角を曲がって美人と出会うという体験も、デジタルで体験するようになるかもしれない。一方で、テクノロジーによって、街から何がなくなるか考えると、ポスト、電柱などいろんなものが淘汰されていく。そうなると、最終的に何もなかった時代の原風景に戻るのではないかとも考えられます。もしかすると、東京のど真ん中は田園風景になるかもしれません。僕のイメージに一番近いのはアニメ映画「サマーウォーズ」でスパコンが畳の部屋に氷で冷やされながら置かれているシーンです。テクノロジーが進化していくと、ああいう形に近づいていくんじゃないかな。
豊田:僕は埋立地育ちなので、古い集落にすごく憧れがあるんです。集落や都市は何千人という人々の意思と時間を積み重ねてできたもので、埋立地のようにコントロールしてできたものではありません。集落にはコントロールしようのないものが集積した圧倒的な面白さがある。今まではそれを結果として受け取ることしかできませんでしたが、技術によって、そういうあいまいな蓄積みたいなものを間接的ながらデザインできる可能性が出てきた。次の次元にぐりぐりと手が届き始めている感じがあって、すごく期待しています。これまで不可能だった蓄積現象としての集落や都市をコントロールできるようになった時、僕らは何ができるのか。デザイナーの感性や機能はどう変わっていくのか。すごく興味がありますし、自分でも率先して実験していきたいです。
西牟田:最後に、これからのチャレンジについて聞かせてもらえますか。
豊田:先ほども触れましたが、noizとは別の新しい建築のリサーチやコンサルティングを事業化するプラットフォームを作りたいと考えています。これまで散発的なリサーチやコンサルのような形で請け負ってきたものを、実施まで含めたプロジェクトとして、いろんな分野の人を受け入れながら請けられるようなプラットフォームの準備を進めているところです。
齋藤:僕が個人的に目指しているのは、分野を横断してものを考える「非分野主義」です。その実現のために絶対的に大切にしたいのが「プロトコル」。これがないために、同じ会社でも他の部署と話ができないということがあります。そこをまずつないでいくことが広告などの表現や仕組みに携わる方々の仕事ではないかと。2020年はその大きなきっかけになりますし、プラットフォームをつくるちょうどいい時期だと思います。そこに向けて、全員がひとつのプロトコルを持って、建築や都市と周りの業界をつなぐ意識で仕事をしていけば変わってくるはずだと、個人的に熱く思っています。
西牟田:電通イベント&スペース・デザイン局も、新しいチャレンジを始めていきます。ライゾマティクスさん、そしてTYOさんと一緒に、「ウルトラパブリックプロジェクト」という新しい街づくりのプロジェクトを立ち上げました。
そこで暮らす人、訪れる人にとってどんな街であるべきなのか、その未来の姿を、区画や建物の整備といったハードのアプローチではなく、一生活者としての「澄んだ目」で一度考えてみる。そして、われわれチームの得意分野である「テクノロジー×エンターテインメント」を活用し解決してみる、といったソフトアプローチで取り組む、街づくりのプロジェクトです。
ウルトラパブリックプロジェクト独自の視点で街の未来を描き、それを実現するための実証実験も行っていく予定です。
齋藤さんがおっしゃる「プラットフォーム」のひとつになるような、そんな活動になっていければいいなと、思っています。
既存の概念やアプローチを新しい視点で捉え直し、いろんな方を巻き込み、領域を押し広げていくことで、あらゆる可能性が広がっていく。今日は、そんな未来を予感するお話が聞けました。ありがとうございました。
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齋藤精一(さいとう・せいいち)
Creative Director / Technical Director : Rhizomatiks
1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエーティブとして活動し、03年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエーティブとして活躍後、06年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。09~14年、国内外の広告賞にて多数受賞。現在、ライゾマティクス代表取締役、東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。13年D&AD Digital Design部門審査員、14年カンヌ国際広告賞Branded Content and Entertainment部門審査員。15年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト15にてメディアアートディレクター。グッドデザイン賞15、16審査員。
豊田啓介(とよだ・けいすけ)
建築家。
千葉市出身。東京大学工学部建築学科卒業。1996~2000年安藤忠雄建築研究所。01年コロンビア大学建築学部修士課程修了。02~06年SHoP Architects(New York)。07年より東京と台北をベースに、蔡佳萱と共同でnoizを主宰。現在、台湾国立交通大学建築研究所助理教授、東京藝術大学非常勤講師、東京大学デジタルデザインスタジオ講師、慶應義塾大学SFC非常勤講師。
西牟田悠(にしむた・ゆう)
電通 イベント&スペース・デザイン局 プランナー。
2009年4月電通入社。入社以来、イベント・スペースデザイン領域で、国内外大規模展示会やプライベートショー、プロモーションイベント、施設・ショップなどのプランニング・プロデュース業務に携わる。イベント・スペース領域を核としながらも、さまざまな領域のパートナーとコラボレーションし、新しい表現に挑戦中。