ヤングカンヌPR部門を分析 — 王道のメッセージが選出される傾向

上位入賞は、本戦審査基準と同様に

最終的に彼らのプレゼンはどんなものだったのか、あるいは受賞した上位3カ国の作品はどういうポイントで評価を得たのだろうか。上位作品を確認したところ、カンヌライオンズのPR部門の本戦同様の審査基準で選出されたのではないかと感じた。すなわち、PRの王道をいく、納得感や意識喚起を促すメッセージをストレートに太く強く伝えていくというやり方だ。

2014年や2015年は、クリエイティブ要素を活かしつつ、「なかなか振り向いてくれないから、こういう手法で気づいてもらう」という、アイデアの光るチームが評価されたと思う。もちろん本戦でも。

しかし、今年の上位入賞作品は、「おおもとの大きな社会問題を、こう伝えれば必ず生活者の声は高まり、さらには流通をも動かす大きなうねりになるはず」というPR的な理想論が、評価基準の大勢を占めてしまった気がする。よって、アイデアの際立ちが弱く、やや残念に思えた。これまでの「生活者に、新たに考えさせる機会を提供する」といった工夫になっていないように感じた。

日本代表の企画書。これまでの傾向に則ってプランニングしたが……。

先にカンヌライオンズPR部門の本戦の評価基準についても触れたが、この傾向は今年はヤングにも波及していたようで、ここ2年の復習がそのまま活かされる結果とならなかったのは残念だ。

とはいえ、賞を獲ることだけがすべてではない。我々PRパーソンからすれば、カンヌライオンズというアワードの傾向を学ぶだけではなく、やはりもっと大きな社会的徴候をつかみながら、日々の業務に臨むことが、結果として賞に近づく方法なのかも知れないと改めて思ったところである。

※参考:
日本では行政を中心に「食品ロス」という言葉を「本来食べられるのに捨てられている食べ物」として扱うことが多い。但し、国連食糧農業機関(FAO)が2015年にまとめた定義では、

  • 食料ロス(food loss):食べ物の量的もしくは質的な価値が減少すること
  • 食料廃棄(food waste):食料ロスの一部で、特にまだ食べられるのに捨てられているもの

としている。

すなわち、食べ物の劣化が原因でやむを得ず捨てるのが「食料ロス」、まだ食べられるのにもかかわらず、商慣習や人々の価値観・経済観念などが原因で捨てているもの、例えば食べ残しや賞味期限切れの食品などが「食料廃棄」にあたる。これにより「食料ロス」は生産や加工などサプライチェーンの川上で、「食料廃棄」は小売や消費の段階(川下)で起こることが多いと思われており、この辺りの整理も、国内外で議論するときには留意したいところだ。

電通パブリックリレーションズ コミュニケーションデザイン局 局長
井口理(いのくち・ただし)

1990年、電通PRセンター(現電通パブリックリレーションズ)入社。コミュニケーションデザインを手がけるチーフPRプランナー。企業のコーポレートコミュニケーションから、製品・サービスの戦略PR、動画コンテンツを活用したバイラル施策や自治体PRまで、幅広く手がける。

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