【前回の記事】「次にやってくる「広告」とは何か?「ユーザー体験ファースト」から未来を予見する」はこちら
いま、メディアの価値は“規模の視点”から“質的な視点”へと転換し、これを計測可能な指標で議論できる段階になった。さらには、それに続く“第三の価値”を問う段階がやってきている。
メディアの自律的価値とは何か
これまでも「メディアの“広告”的価値」については盛んに議論されてきたが、その前に「メディアの自律的な価値」とは何か、つまり読者(ユーザー)にとっての価値が論じられなければならない。
ユーザーにとって“メディアの価値”とは何か、そこには古くて新しい議論が含まれている。
- 自分の周囲で、さらには遠く世界で、刻一刻と生起する事象をいち早く知る
- 多くの人々が共通に事象を知る
- 事象の本質や背景を深く理解する
- 事象を、喜びや悲しみ、そして怒りといった情動として味わう
- 事象だけでなく、多様な人々の思想や感情、習慣を知り、感化される
- 以上が契機となり、自ら考え、学び、行動する・交流する
このようなメディアがもたらす価値は、決して短期的に生まれたものではない。
メディアの作り手の使命感として、ユーザーの期待感として、長い時間をかけて形成されてきた。だが同時に、新しい側面も生み出している。
メディアの伝達形式がアナログからデジタルへと変わり、作り手とユーザーの関係が双方向なものになるにしたがい、メディアの価値を表現する方法にも変化が生じているのだ。それを客観化するために、いくつもの指標を活用して評価する手法が生み出されようとしているのが現在だと言える。
メディア価値の指標が変化し始めた
検索エンジンの普及により、メディアは記事(コンテンツ)単位でアクセスされるようになった。現在では、ソーシャルメディアを介して、知人らの関心や話題となったコンテンツへのアクセス回路が勢いを得るようになった。
これらによって、メディアそのものに対する認知がなくとも、あたかも偶然のようにコンテンツに触れる機会が増大した。その結果、記事単位のアクセス数、Webサイト訪問者数が客観的な指標として採用され、それらの総数は膨れあがっていく結果となった。
検索エンジンやソーシャルメディアからアクセスを得るための方法が研究しつくされ、過去には検索エンジンへの最適化が過度なまでに発達し、いまはそれに代わり、人々の情動に訴えかける口コミ手法がある種のメディアにとって重要な成長戦略とさえ位置づけられるようになった。
それらが引き起したのは、メディアの価値を表す尺度の中でも規模的指標のインフレだ。
Webメディアが台頭して約20年間。メディアの価値は「ページビュー(PV)」「ユニークユーザー(UU・もしくはユニークブラウザ:UB)」といった規模的指標によって説明されてきた。
このシンプルな指標は、Webからソーシャルメディア、そしてアプリの時代に入っても一貫して用いられている。これらは規模の拡大を続けることこそが価値である時代に、最適な指標だったわけだ。
だが、規模の拡大だけを重要な価値としつづけていくとモラルハザードを引き起す。ここでは触れないが、実際にそれは起きている。
メディアが扱うテーマには、汎用的なものから、尖鋭に専門的なものまである。単純な規模の比較だけでは、そのメディアの価値を十分に表現できないことは、メディア運営者も広告主も、そしてユーザーでさえも気付いていることだ。
そこで、新たな計測指標として大きく2つの方向が見えてきている。