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都知事選に見る「量」と「質」
この連載は、毎月一本のペースで書いてきたのですが、今月は宣伝会議から私の新著が1日に発売されたので早めに書けと言われて8月8日に配信しました。それなのにお盆が明けたら「もう一本書いてもいいですよ」と言うんですよ。「いいですよ」ってのは、お前の本が出たんだからもう一本ぐらい書けよ、という意味なんでしょうか。まあ私としても本のこと皆さんに知ってもらいたいので、ええ、ええ、書きますよ、書きますとも。
というわけで本題に入りますと、コミュニケーションはいまや、量の時代じゃない。そんなことがもう何年も前から言われてきました。テレビCMをがんがん打つより、ネットで人びとと関係を密につくるほうが大事だとかなんとか。でも実際どうでしょう?なんか理屈先行で、そうなっているような、なってないような。あるいは、一部では成立する話でも、メジャーな商品や大きな企業では成立しないんじゃないか。そんなことも言われていた気がします。
ところが、このところ立て続けに、大型商品のコミュニケーションで「量」より「質」が効力を発揮したと言えそうな事例が出てきました。
まずその最たる例が、都知事選での小池百合子氏の大勝利です。皆さんご記憶の通り、当初は鳥越俊太郎氏が有利に見えたのが、実際には小池氏の圧勝でした。
この選挙では各候補者ともソーシャルメディアの活用に熱心でした。そこで、鳥越氏、小池氏、そして増田寛也氏のTwitterをいくつかの角度で分析してみましょう。ツイート収集とデータ提供は、ソーシャルメディアの分析では随一のデータセクション社にお願いしました。
まず純粋なツイート数です。こんなグラフになりました。
あれ?意外に鳥越氏が、とくに終盤に向けて他の二人よりずっと多いですね。ツイート量では圧勝。
では次に、リツイート(RT)数を見てみましょう。候補者のツイートをどれだけ多くの人がRTしたのか。
3候補の中で差が出ました。やはり鳥越氏のRT数が多い。そして増田氏は圧倒的に少ないです。これには理由があります。
まず鳥越氏のRT数が多いのは、そもそもフォロワー数が15万以上いて、しかもさっき見たように後半に向けてツイート数を増やしています。自然とRTが増えていくことになります。一方の増田氏は、フォロワー数が選挙が終わる頃に5000くらいになった程度。基礎数が少ないので、RTも少ないのです。
もうひとつだけグラフを見てください。今度は、Favorite数、つまり有権者が「お気に入り」に入れたTweetの数です。
最初の2つのグラフが鳥越氏の圧勝だったのに、このグラフでは小池氏が抜き去っています。お気に入りに加えるのだから、小池氏のツイートが評価された数と言ってよさそうです。
小池氏もフォロワー数が20万と多いせいもありますが、とにかく鳥越氏と小池氏は対照的です。自身のツイートも多いし、そのせいでRTも多い鳥越氏と、とにかくFavorite数が多い小池氏。
どうでしょう?「量」の鳥越氏と「質」の小池氏と言えないでしょうか。そして、小池氏が「質」で圧勝したのだ、と言えるんじゃないか。もちろん、鳥越氏にはスキャンダルが出てきたのもあるでしょうし、街頭演説の回数も少なかったそうなので、それも作用しているでしょうけど。
結論を急ぐ前に、もうひとつ見てもらいたいグラフがあります。3候補についてテレビはどれだけ扱ったか。これについては、私が顧問の肩書でお手伝いしている、TVメタデータのエム・データ社にグラフ作成をしてもらいました。
まず小池氏です。
このグラフでは、6月20日から選挙公示日の7月14日を経て、投票日の7月31日までが範囲です。候補者の名前が番組の見出しやコーナーに出てくるものを取りあげています。小池氏の場合、6月末に名乗りをあげたり、そのことが自民党都連と揉めたりといったところで告示日前に話題を振りまいていたことがわかります。意外に、選挙期間中より一悶着起こったことの方がずっと多くテレビで取りあげられていました。
続いて、増田氏のデータを見てみましょう。
増田氏の名前も、6月後半から公示日の前にもけっこう取りあげられていました。でも小さい。少ない。地味。小池さんが派手に揉めて話題をまき散らしたのと対照的に「ずっと、ここにいます」といった感じ。お人柄そのままですね。
最後に鳥越氏です。
公示日直前の7月12日に、いきなり“高ーい棒グラフ”が立っています。さすが知名度抜群。突然の出馬表明が大きな話題を呼びました。でもこれを見ると、遅すぎだったかもしれませんね。
こうして比べて見ると、必ずしも小池氏が「質」だけだったわけではない。公示日の前に十分な「量」を獲得していたとも言えます。なんだ、じゃあ結局、量も大事で、質も重要という当たり前の話じゃないか。
でもこれ、やはり「質」が大事だ、という話だと思うんです。まず最低限の「量」は前提なのでしょう。その点で増田氏は量が足りなさすぎた。もっと早くから出馬を鮮明に打ち出して、公示日までに量を稼ぐべきだったのです。
そして、小池氏の話題の振りまき方は成功していたけれども、もともとの知名度がある分、鳥越氏も出だしでは「量」で負けていなかった。ところがそのあと、「質」で惨敗。これはツイートの内容を見ていくと感じることです。
実は、鳥越氏のほうが小池氏よりずっと「政治の話」をツイートしています。もちろん反アベとか、反原発とか、都政じゃない話が多いのが問題ですが、とにかく政治について語っています。でも共感されてないわけです。お気に入りにならないのです。商品のセールスポイントを言い続けているだけだと言えます。そんな一方通行のコミュニケーションは量がいくら多くてもダメなのでしょう。
小池氏のTweetは意外に、呼びかけが多いのです。
「す、すごい!こんなに多くの皆さんが小池ゆりこ支援にお集まりいただきました。勇気100倍です!」
「感動!感動!感動! 感動以外の何物でもありません。3000人を優に越す皆さん。銀座四丁目が埋め尽くされております。」
「ひとりで始めた戦いでしたが、応援の輪が日に日に広がり、私自身、勇気と元気をこれほどまで頂けるとは。ありがとうございました。」
こんな風に、一緒に“ワルモノ”と戦っている様子をつぶやいて、みんなを巻き込んでいるんです。百合子グリーンと相まって、有権者を小池百合子の物語に同乗させている。
優れた商品性能を謳うテレビスポットを大量投下するより、「あなたと私」の関係づくりを図る心こもったメッセージのほうが、結果を出せる。そう言えるのではないでしょうか。
これに非常に近い解釈ができる、この夏のヒット商品が他にもあります。『シン・ゴジラ』と『ポケモンGO』です。