マーケターは組織を横断した遊軍的な「コーディネーター」に
インターナルブランディングという言葉があります。社員を、様々なシーンでブランドを体現し代弁する存在ととらえ、まずは社員に対して商品や社名をマーケティング・ブランディングしていくべき、という考え方です。その文脈では、商品やブランドにまつわる体験をデザインするという考え方は、例えば人事部門にもあるべきです。株主総会は、投資家という大事なステークホルダーとのとても重要なタッチポイントですが、そうした現場では財務・IR部門もいかにブランド体験をデザインしていくか、という視点を持たなくてはいけません。
商品開発、広報、営業、コールセンターは言うに及ばずです。商品そのものやパッケージ、パンフレットやPOPなどのマーケティング素材はもちろん、店頭の什器、担当者の立ち振る舞いや服装、口調、すべてがブランド体験になります。
アップルのスティーブ・ジョブズやアマゾンのジェフ・ベゾスのようなカリスマ的なリーダーがいれば、全てのステークスホルダーに一気通貫した体験をデザインし、それを組織全体に浸透させていくことはある程度容易でしょう。そんな存在がいないときに、いかにしてそれを実現するか。それこそが、来るべき時代におけるマーケターの新しいミッションなのではないでしょうか。
ときに顧客体験のデザイナーであり、ときにその伝道師であり、あるいはその監督者であること。名目上どのような名前のチームに所属していようと、そんなマーケティングという思想を体現し、影響力や(幸運にも経営者の理解があるときは)組織上の権威を行使して、社内の複数の組織をその名のもとに統合できる個人、または集団。そんな新時代のマーケターが、ビジネスの成否を決する時代が近く訪れるでしょう。
メディアを使った広告宣伝機能からスタートし、今やマーケティングは組織の一機能であることをすらやめて、そこから超越し、一つの思想・考え方にまでそのアイデンティティを拡張しました。これは「アイデンティティの危機」ではなく、サナギが蝶に孵化するようなマーケティングの変節であると、筆者は考えます。