『バケモノの子』は“心の親”を思いながらつくった作品
中村:僕も『時かけ』ですかね~。でも、ファンだと『サマーウォーズ』が一番好きという人が多いですかね。
細田:いや、僕が聞いていると、みなさん分かれるんですよ。家族の中でも分かれるという。この間、知り合いの歯医者さんと話をしたら、息子さんは『サマーウォーズ』、お母さんは『時かけ』、お姉ちゃんは『バケモノの子』、歯医者さんは『おおかみこどもの雨と雪』だって。
澤本:うま~く分かれてますね(笑)。
細田:家族と言ってもバラバラな思考の集まりなんだなと。
澤本:細田さんの前作である『バケモノの子』がちょうど公開から1年が経ちました。早いですね。細田監督にとっては、今までの4つの作品群の中では、これはどんな作品ですか?
細田:アクションが今までで一番多いんですよ。色々なアクションの種類というか、アクションはさまざまなネタをどれだけ出せるか、みたいな。そういうことを意地になって考えていた作品なので、ご家族としゃべりながら見ても、面白く見られるんじゃないかなと。
中村:僕ら大人からすると、裏のテーマというか、ひきこもりの成長物語みたいなものがちゃんと見えるけど、小さい子どもが一緒に見ると面白いファンタジー活劇として見られる。そこのバランスがすごいと思います。
細田:あとは『バケモノの子』をつくりながら思っていたのは“心の親”ですね。家族や親について考えてきたけど、本当は血の繋がりがなくても“心の親”って誰でも10代の頃っているじゃないですか。全く他人で会ったこともないし、ひょっとしたら外国にいたり、歴史上の人物だったりするかもしれないけど、そういう人が子どもの成長に寄与していて。「そういう親っているよな」「みんないたんじゃないかな」ということを比喩的に表現したかったというか。比喩として映画に、形にしたいというのがあったんですね。
中村:細田さんはちなみにいらっしゃいましたか? 先生みたいな、師匠みたいな。
細田:やっぱりいるんですよ。全く名もない人も、しかも1人じゃなくて何人かいるんだけど。自分の知り合いの先生みたいな人だったり、外国の映画監督だったり。中村さんはそういう人いますか?心の親というか、親よりも親だったな、みたいな人。
中村:うーん・・・どうかなと思って聞いちゃったんですけど、澤本さんは思い浮かびます?
澤本:何人もいるね。僕の母方の田舎のおじさん。夏に1カ月だけ北海道の余市というところに帰ってたんですけど、そのときだけ会うおじさんがいて、その人は学校の教頭先生だったんですよ。言うことが楽しいというか、教育してくれるの。ガンガン言わないで、これはこうだよね、と教育してくれて。
だから、そのおじさんの言うことは全面的に信用する。それこそ“心の先生”というんですかね。うちの家族は「山本先生」と呼んでたけど、先生の言うことは絶対だと思うし。僕は受験に一回失敗して、ストレスかな、家のタンスに絵の具で草の絵をいっぱい描いてたの。たぶんちょっとおかしかったんですよ(笑)。
中村:そうですね(笑)。おかしかったんですね。
澤本:そしたら、そのおじさんがちょうど家に遊びに来て、それを見て。一回北海道に帰って、手紙を送ってきたから、開けてみたら「頑張れ」と書いてあったんですよ。それを見て僕は「やばい、こんなことしてる場合じゃない」と。
中村:何かわかったんでしょうね。
澤本:小学校、中学校のときに遊びに来たときのあいつじゃない、というのがわかったのかも。手紙をもらって、それを見たら泣くどころの問題じゃなくて、「俺はこんなことでサボってる場合じゃない」って思いましたもんね。
中村:東京国立博物館で7月15日、16日に野外シネマがあるそうですね。これは前回、8600人も訪れたもので、『時かけ』をみんなで見ようという。
細田:そうです。上野の東京国立博物館の前の空が見える野外の中で、アニメ映画を見るという企画。そういうイベントで、前にやったときは無料イベントだから、国立博物館の入場料だけを払えばいいという。暇な人が来てくれればいいなと思っていたら、僕らの想像を超えるビックリするぐらいの人が集まってくれて。
みんなそういうのを見たいんだなと。見ると絶対に気持ちいいと思うんですよ。夏の星空を見ながらアニメ映画を見るというのは幸せな体験なんですよね。僕、前にアヌシー国際アニメーション映画祭というのがあって、そこに招待されたときに野外で『101匹わんちゃん』をやっていたんですよ。そのときの芝生で寝転がって見るというのが素晴らしい体験で。
あとは、井の頭公園で高畑勲監督の『セロ弾きのゴーシュ』という60分ぐらいの中編アニメーションを武蔵野市の無料上映でやっていて。見はじめたときは明るいけど、見終わって空を見上げるとワーッと星が見えて。見ていたアニメも賢治世界の星の中のだったりして気持ちがいいんですよ。だから、7月15、16日の野外上映は気持ちいいので、ぜひ見てくださると面白いと思いますよ。
澤本:そうですね。15日が『時をかける少女』の公開から10年の日だと。
中村:あー、そうなんですね! 10年記念で。
細田:そうか、それで10・・・。
澤本:今、気が付いたんですか(笑)。
細田:うわ、もう10年ですか。うわー。ついこの間のような。4、5年前につくったような気がしますが、10年ですか。タイムリーですね、まさに。
澤本:その前の話として、7月12日の火曜日から国立博物館で、『時をかける少女』と東京国立博物館』というスペシャル展示をやってるんですよね。
細田:映画の中に展示された絵にまつわる展示が国立博物館の中でやっているという。これも立体学習というかね。映画と実際の展示と。よろしくお願いします。
澤本:さらに、僕が好きな映画だから告知ばっかりしてますけど、18日の月曜日から角川シネマ新宿でデジタルニューマスター版の『時をかける少女』をやると。やっぱりビデオで見るのはいいですけど、劇場で人と一緒に見るのって楽しいじゃないですか。屋外でも見てみたいけど。
中村:ご家族でもいいし、『時かけ』だとカップルでもいいと思いますけどね。ちょっと隣にいる男が思ったより一段階ぐらいかっこいい奴に見えるんじゃないかとていう。何かそういうファンタジーを生んでくれる映画のような気がします。
細田:そう言ってもらえるとうれしいなぁ。10年が経って、『時かけ』の価値がみなさんのおかげで変わってきた気がするんですよね。
澤本:いやいや、さっき『SWITCH』の話で出ましたけど、『時かけ』で言うと、最後に河原で千昭くんが真琴ちゃんの頭をポンってやってるシーンを見るだけで、前後を見てなくても僕は泣きますね(笑)。そこらへんのことをだいたい覚えちゃってるから。あのシーンがポンってあるだけで、うるっときます。「未来で待ってる」というね。