『時かけ』の真琴と千昭の名前はこうしてつけられた
中村:「今年もまたあの夏がやってくる。」というキャッチコピーで、細田監督のSTUDIO CHIZU 2016 IN SUMMERキャンペーンを開催すると。これはどんなキャンペーンですかね? 脇で聞いていたプロデューサーの齋藤優一郎さんに聞いてみましょうか。
細田:そうなんですよ。これはプロデューサーの齋藤から。
中村:脇で聞いていたスタジオ地図の齋藤さんを無理矢理お呼びしてしまいました。これはどのようなキャンペーンなんでしょうか?
齋藤:細田監督の映画は青空と入道雲が印象的なように、やっぱり夏というものが象徴的な映画ではないかというのがあって。またあの映画が見たくなる、あの感動、喜びをみんなで共有できるような、そういうイベントをまたこの夏にやりたいなと。それで野外シネマや渋谷パルコさんで行っている「時をかける少女カフェ」など、映画とはまた違った表現で細田監督の作品を沢山楽しんでもらえるイベントをやっています。細かいものも含めて20個ぐらいかな。いろいろなことを今やってるんですね。
澤本:いろいろなものをひっくるめて、そう呼んでいると。
齋藤:そうです。今年、新作はありませんが、金曜ロードSHOW!で『バケモノの子』の放送があったりと、みんなでまたこの夏に細田作品で盛りあがろうよと。沢山の人と思い出を共有できたら良いなと。映画で感じたあの感動を、いろいろな形で体験ができるイベントを沢山用意しているので、ぜひスタジオ地図のHPをご覧いただければ。
澤本:どうして「スタジオ地図」という名前にしたんでしたっけ?
齋藤:これは細田監督がつけたんですよ。
細田:わりとエレメンタルな名前にしたいと思ったんですね。水、火、風、山のように変わらない価値を持っているものというか。でも、「スタジオ山」「スタジオ風」というのはかっこいいかもしれないけど、もうちょっと旅立つような印象が欲しいと。
齋藤:細田監督は無限に拡がるアニメーション映画の可能性に対して、常に新しいモチーフやテーマ、表現にチャレンジをして映画を作っているんですよね。そして、その可能性に、みんなで新しいチャレンジをして「面白い映画をつくっていこうよ」、可能性という新しい大地に、新しい線を引いて、地図を描いていこうよとね。もう5年も前ですけど、夜中の4時ぐらいにそういう話をして決まったんですよね。
細田:もう頭が働いてないときに出てきたんです(笑)。
澤本:名前でいうと、登場人物の名前はどうやって決めていくんですか? 自分の記憶にある人の名前を付ける人もいますが、細田さんはルールがあるんですか?
細田:実在の名前からは付けないですね。『時かけ』の真琴、千昭で言えば、真琴は女の子だけど男の子の名前の響きにしたくて、千昭は男の子だけど女の子の響きにしたかった。だから、逆にしたかったんですよ。
中村:それはまたなぜ?
細田:『時をかける少女』というタイトルからして、女の子っぽいイメージがあるでしょ? 大林版の原田さんも含めて「おしとやかな女の子のイメージ」がある。新しい『時かけ』をつくるときに、それを引っくり返すような、もっとアグレッシブな女の子というかね。女の子を単に女の子として描くんじゃなくて、主人公の真琴をもっと未来の象徴として描きたいというときに、あまり“女性”性を背負ってほしくなかったわけ。
一方で、千昭も未来を象徴してるけど、未来は男がつくる未来じゃなくて、もっと柔らかいというのかな。千昭という女の子の非常に繊細な響きをもった人が未来というイメージという。そういう意味では「今までの未来のイメージじゃない」というところで狙ったのが2人の名前。かなりコンセプチュアルなんだよね。
澤本:いい話聞けちゃったな。真琴ちゃんがキャッチボールをするのも、そこが少し入ってるんですか? 少し男っぽくという。
細田:そう。だから野球モチーフもそういうことですよね。普通やらないでしょ、みたいな。
澤本:あのキャッチボールのシーンに僕は相当やられてるんですよ。女の子がキャッチボールをしている時点で、既にいい映画だって(笑)。
細田:『雪の断章』に3人でバドミントンをしているシーンがあるんですけど、ネタ晴らしをするとオマージュということもありますね。でも、それだけじゃなくて、女の子がバドミントンではなくキャッチボールをやるということの名前と相まった意味はあるんじゃないかなと。
澤本:ちゃんとコンセプチュアルに名前がついていると。
細田:ハッキリと男と女が入れ替わってる名前だよな、ということを意図してやったのに、今は普通に真琴が女性の名前で千昭が男性の名前でしょ。だから、世の中のほうが早く変わった、ひっくり返ったみたいな気もちょっとしますね。既に馴染んでるからさ。
澤本:確かに馴染んじゃってますもんね。
細田:だから、そのコンセプチュアルが生きないぐらい世の中が変化したとも言える気がしますよね。
中村:そろそろ時間となりましたが、まだまだ話し足りないので、来週も引き続き、細田守監督をゲストにお迎えして、お送りしたいと思います。
<次回に続きます>
構成・文 廣田喜昭