宣伝会議賞 新ロゴマーク決定!デザインは東京2020エンブレムの野老朝雄氏

今年、宣伝会議賞は新しいロゴマークを策定しました。手がけたのは、2020年東京五輪の公式エンブレムを制作した、デザイナー/アーティストの野老朝雄氏。エンブレム決定後、野老氏が初めて制作した今回のロゴ。そこに込めた思いや制作エピソードを聞きました。

—宣伝会議賞のロゴ制作を引き受けてくださった理由を聞かせてください。

宣伝会議賞の新ロゴマークをデザインした、野老朝雄氏。

私は建築出身ということもあり、広告界のことをあまり知りません。宣伝会議賞も、今回お話をいただいて知りました。今年で54回を迎えるとのことで、「そんなに続いているのか」と驚きましたね。宣伝会議賞は、半世紀以上続いてきたコンペティションで、もはや100回目が視野に入る段階にまできている。脈々と続いてきた、また今後も続いていく歴史ある賞に、こういう形で関われるのは嬉しい。光栄に思い、取り組みました。

多くのつくり手が望んでいることかもしれませんが、私には「自分がつくった図形が、できる限り長く使われてほしい」という願望があります。私がデザインを考えるときの一つの基準として、それを「墓石に掘れるか」「タトゥーとして身体に刻印できるか」というのがあります。もちろん、実際にはやりませんが。それだけ長く維持できる、強度のあるデザインを実現したいと思っています。

—宣伝会議賞とは、どのような賞だと捉えていますか。

言葉に対する感覚の鋭い人たちが、その表現を鍛え、磨き上げる場。過去の受賞作品を見ていると、その時代時代の世相が強く反映されているのだろうなと感じます。言葉の言い回しというのは、一つの発明のようなものだと思うんです。その発明の数々を、「賞」という枠組みをもって記録することで、各時代をマークし、蓄積・継承することができている。大変意義のある賞だと思います。

時代を確かに反映しつつも、ビジュアルに比べると、文字や言葉は古びない。ビジュアルは、時代が移り変わっていく中で、例えばメイクやファッションに“古さ”や“ダサさ”が出てしまう場合があります。言葉がそうならないのは、イメージを規定しないからです。読み手・受け手が勝手に想像を膨らませて、自由にイメージしていいわけです。

何らかのメッセージを届け、相手に想像を促し、行動を促す……そんな力を持つ言葉の頂点を極めようとする方々は、表現を磨くことにしのぎを削り、精進しているのだろうと思います。文字や言葉に憧れを持っている人間(編集部注:野老氏は、2011年以降ライフワークとしている「漢字をデザイン的に解釈し直す」プロジェクトや、独自フォントの開発を手がけるなど、文字に対する造詣が深い)として、改めてすごい賞だなと感じています。

—ロゴに込めた思いを聞かせてください。

「言葉のトップを決める」アワードの頂点を表現するため、ピラミッドを上から見た様子をイメージした。

まず、「宣伝会議」という企業名・雑誌名、「宣伝会議賞」というアワード名に強いインスピレーションを受けました。今は当たり前のように受け入れられていますが、かつては「それが雑誌の名前?」と驚かれた時代もあったと思うんです。そんなインパクトのある名前を、現代に至るまで大切に維持してきたことへの敬意もあり、この漢字をロゴとして扱ってみたいと考えました。

具体的には、東日本大震災以降、日本人としてのアイデンティティを再確認しようとライフワークとして続けてきた「漢字のプロジェクト」のスキームを使って図形化しました。先ほどもお話ししたように、私は文字や言葉に強い憧れを持っています。26文字という限られた文字を組み合わせてコミュニケーションを成立させるアルファベットのシステムに感動する一方で、漢字の一字一字に込められた意味の重さ・深さに、言い表せない魅力を感じるんです。文字をデザインの視点で解釈し、そこに込められた思いやメッセージを立体/平面で図形化することで、自分もその世界に少しでも関わっていたいという思いがあります。

ビジュアルとしては、「頂点」を表現することを念頭に置きました。宣伝会議賞は、何十万と集まってくる言葉のトップを決める、凄まじいアワード。多くの人がめざす、その頂点を表現したいと考え、ピラミッドを上から見た様子をイメージしました。

さらに、平面で見たときには、「一つの言葉が、波紋のように周囲へと強く・広く影響を及ぼしていく」様子にも見えるようにと考えました。シンプルな佇まいを追求することで、単体でも、複数組み合わせてパターン化しても、力があるデザインをめざしました。

また、宣伝会議のコーポレートマークが非常に美しい形だなと思っていましたので、それとの調和も意識しました。小さな三角形で構成された10角形は、遠目には正円形にも見える。コーポレートマークの「△」「◯」に対し、「□」(正方形)で表現しようと。とは言え、そもそも漢字を使おうと思った時点で、正方形にするという方向性はほとんど決まっていたのですが。

—応募者をはじめ、ロゴに触れた人たちに、どのように受け止めてもらいたいですか。

応募する人にとって、文字通りシンボルのような存在になれたら嬉しいですね。「自分は/あの人は、宣伝会議賞の受賞者なんだ」と誇りや尊敬の念を喚起するようなトロフィのアイデアが、実はロゴを考えるのと同時に、すでに頭に浮かんでいて。平面のデザインをつくるときは「どのように立体化するか」「どのようにパターン化するか」という応用展開を常に考えているので、今回のロゴの場合も、トロフィや賞状への展開イメージを並行して考えていました。

ロゴと、それを起点にしたトロフィが、宣伝会議賞受賞をめざす人にとっての、誇りと憧れのシンボルとなるように。また、協賛企業や審査員にとっても、本賞に参加していることを誇りに感じられる、エンブレムのような存在になれるようにと願っています。このロゴを使ったトロフィが、受賞者の自宅や仕事場に誇らし気に置いてあるところを、早く見てみたいですね。

—ロゴを刷新したことで、宣伝会議賞がどのように変わっていくと思いますか。

このロゴが、これまで広告やコピーに関心がなかった人の目にとまり、宣伝会議賞を知り、参加するきっかけになったら嬉しいですね。「中高生部門」が新設されると聞きました。そういう若い人の視点が、大人のそれを凌駕することもあるわけですよね。また、コピーライターではない、全く別の領域で活躍している人のアイデアが、広告コピーに新しい可能性をもたらすこともあり得るかもしれません。

言葉というのは、非常に幅広く、奥深いもの。詩や俳句に使われる言葉があれば、チラシやPOPに使われる言葉もある。想像や理想も内包した詩的な世界と、生活感のある現実世界、そのどちらにも言葉は生きています。そして領域・シーンごとに、それを操る才能が存在していると思います。

もしかすると、そのボーダーは、もっと自由に越えてもいいのではないでしょうか。建築、空間、グラフィック、ファッションとデザインの各ジャンルが連携や融合を見せ始めているように、小説と詩とコピーとつぶやき、それらが同じ「言葉」として、一緒に語られる場があってもいいのではないかと。広告界の外の才能が入ってくることで、広告コピーの世界が、ますます深みを増していくこともあるかもしれません。このロゴが、そのきっかけとなれたら、それは素晴らしいことだと思います。

第54回宣伝会議賞 公式サイトはこちら

今年新設の「中高生部門」は、現在、作品応募を受付中です。
一般部門の応募受付は、9月1日に開始します(エントリーはすでに可能です)。

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