足立:カズーさんはもともと、音楽の世界で仕事をされていたんですよね?突然、フィールドが広告に変わって戸惑いはなかったんですか。
佐藤:苦労はしましたね。広告の実務的な制作経験が一切なかったので。でもディレクションをするからには、すべてを把握してなければならない。20代の頃は、スキルを身に着けようと深夜に帰宅して2、3時間くらい勉強をして寝てまた出社する、という生活を繰り返していました。「周囲を見返してやりたい!」という気持ちが強かったから、できたことだと思います。それでも未だに、自分がつくったものに100%満足したことはないんです。少し時間が経つと、もっとこうすべきだったかも、と細部が気になってきて。常に自問の繰り返しです。
岸井:佐藤さんでも、そんなことを考えたりされるんですね。何だか少し、ホッとしました。実は私も、撮影後に『これでよかったのかな?』と怖くなったり、そう思いながらつくったものを世に出していいのかなとか考えたりする時もあって。でも、その時の私で100の力を出したつもりなので、それはそれでいいのかな…とか一人でモヤモヤと考えていました。とにかく一歩でも前に進もう、と頑張ってはいるのですが…。
佐藤:そうなんですよ。僕らの仕事って、人の人生を例え1ミリだとしても、前に動かせるかもしれない仕事じゃないですか。なので、世の中に出すものに責任を持たなければ、と思っています。
足立:カズーさんの作品を拝見すると、テレビCMとSNSを絡ませたり、連動をさせるのが上手な方だなと思います。
佐藤:アイデアがしっかり軸を持てれば、媒体が変わってもクリエイティブはつくれると思うんです。なので、まずはコアアイデアをしっかりと見つけて、どんな設計図でも描けるようにすることが大切です。岸井さんは映画、ドラマ、舞台と数々のシーンで活躍されていますけど、どれが好きですか?
岸井:うーん。それぞれ魅力が違うので選べないんですよね。つくり方は違いますけど、お芝居としては一緒なので、私自身は変わらない気持ちでやっています。ただ、舞台は、お客さまの反応をダイレクトに感じることができるので、感覚が研ぎ澄まされていく気がします。
足立:舞台って一発勝負じゃないですか、怖くないですか。
岸井:すごく怖いです。思うようにいかないこともよくあります。舞台に立って、お客さんに伝わっていないなって感じるとき、セリフは変えずに見せ方を変えたりすることもあって。それによって良い方向にいくこともあれば、何も変わらないこともあります。そこでお芝居が崩れたりしたら、私の責任なので、慎重にはなりますが、試行錯誤しながら頑張っています。
足立:お二人は、どんなクリエイター、女優になりたいですか?
佐藤:引き続き世界に向けて、埋もれた才能や、日本の産業をクリエイティブの力でアピールしていきたい。今はその過程だと思っています。
岸井:私はずっと女優を続けていたいです。生きている中で、色々な人と仕事をして、一歩一歩歩いていって、ふと振り返ったときに、『あ!いっぱい宝物あるな』、っていう人生だったら私幸せだな、と思って。
佐藤:聞いている僕らも、幸せな気持ちになりました。
足立:大変なことも多い世界だと思いますが、仕事のどんな点が好きなんですか。
岸井:私の人生よりも長く残るかもしれないものに携わっているので、すごく怖いですけど、やっぱり面白いんですよね。自分と、自分以外の(架空の)人物の人生とを共有するのは、とても不思議な感覚になるんです。それはこの仕事でなければできないと思うので、失いたくないなと。
佐藤:色々な人の人生を生きるんですね。10年先を見て今行動しているのは、成功する人のパターンですから。
足立:女優魂を持った女優さんですね。先が楽しみです。
岸井ゆきの(きしい・ゆきの)
1992年生まれ。主な作品に、映画『友だちのパパが好き』(山内ケンジ監督)『ピンクとグレー』( 行定勲監督)、テレビドラマに、「SICKS ~みんながみんな、何かの病気~」(TX)『99.9- 刑事専門弁護士-」(TBS)などがある。最新作は舞台『るつぼ』(10/7~Bunkamuraシアターコクーン)。
足立茂樹 e-Spirit 代表
キャスティング会社e-Spirit代表。博報堂出身。現在は50名のスタッフで年間2000本余りのキャスティングを行う一方、『がんばる人を応援する』を社是にまだ売れていない役者・モデルの売り出しに芸能事務所と協力しながら尽力。
ヘアメイク/石川奈緒記
Photo /杉能信介