#非進化論4:「ユーザーに喜んでもらうこと」こそ唯一の価値(マネーフォワード 辻庸介さん)

「Money Forward」誕生秘話

渡辺:辻さんがマネックスを退社された時、「会社を立ち上げるんだけど、ほぼネーミングは決めてある。プロの目でのセカンドオピニオンがほしい」と辻さんが潤平社にやって来た。「どんな名前にしたの?」って聞いたら、自信満々に辻さんが出してきたのが、『EBISU BOOK』という名前(笑)。

辻:恵比寿様ってお金の神様じゃないですか。のちにオフィスを恵比寿に移したのですが、それもご縁だと思ったし。「BOOK」は本が好きなのと、Facebookのようにオープンにつながるお金のサービスつくろうと思ってつけたんですけど…。

渡辺:最初に聞いた時は何も反応できなくて(笑)、一度こちらで考えていいかって聞いたんですよね。

辻:潤平さんは優しいからね。明らかに「大丈夫か」って顔はしてるんですけど、直接は言わなかったですね(笑)。

渡辺:一週間後にもう一度潤平社に来てもらって、「Money Forward」を含むいくつかネーミング案を提案したんです。その時は創業パートナーの方も2名同席されて、その方たちは「Money Forward」を気に入ってくれたんですけど、辻さんだけは「EBISU BOOK」に未練があって(笑)。どうかな、どうかなって迷っていたので、わりと押しつけ気味に決めてもらったんです。そのほうが絶対にいい成長曲線を描けると確信していたので。

辻:あの時、潤平さんの言葉でよく覚えているのは「辻さんがつくりたいのって、インターネット上で誰もが使えるような大きなサービスを作る会社ですよね?恵比寿って地域もあるし、ヱビスビールもあるから、『EBISU BOOK』はすごくクローズドなイメージになりますよ」って言われて。その一言で腹落ちしたんです。

渡辺:出発点は家計簿サービスなんだけど、その先で、クラウドを通じて企業向けのサービスを提供する時に「EBISU BOOK」だと、サービスの広がりを支えきれないと思ったんです。
お金に関わることすべてを前に進める「Money Forward」だと、たとえ現状のサービスから180度違うサービスを立ち上げたとしても支えきれるから。

辻:そんなところまで考えてたんですか!さすがですね(笑)。

渡辺:名前を付けさせてもらった「Money forward」の成長が、自分のことのように嬉しいんです。

辻:当社の「ゴッドファーザー」ですからね。

得意なことを、得意な人がやるチーム

渡辺:多くの起業家を見ていると、とにかく瞬間風速を上げて、儲けて、売却して、次の鉱脈を見つけるほうが多いじゃないですか?でも、辻さんは同じことをずっと続けている、全く逆のタイプ。だとすると、辻さんの仕事への原動力はどこにあるんですか?

辻:やっぱり僕は、コツコツサービスをつくるのが好きなんです。“製造業の血”が流れていると思います。

元々は、お金の課題をテクノロジーで解決したかった。情報リテラシーの格差によって、恩恵を受けられる人と受けられない人が存在する金融サービスって、フェアじゃない。そう思って会社をつくったんです。ただし、ゴールがものすごく遠いから、現状はやりたいことの1%ぐらいしかできてないよねっていう話を、社内でもよくしているんですけどね。

渡辺:そのゴールがひとつの山だとしたら、登りきった先にはもう一つの山が見えているんですか? それとも、登りきったあとで、次の山を探すんですか?

辻:お金の課題をテクノロジーで解決するって、本当にきりがないんです。物事を少しずつでも前に進めたくてやっているんですけど、その手前に小さい山がたくさんある感じ。なので、どこまで行っても達成感はないですね。

渡辺:僕らで言うと、掲載やオンエアというゴールがあって、いつも多少の後悔はありながらも、ある程度の達成感を獲得できる。つまり、自分がきちんと足跡を残せたって実感が持てる瞬間があるんですけど、それがないということ?

辻:現場から離れてしまうと、とくにそう感じますね。

渡辺:辻さん自らが現場に乗り込むことはないんですか?

辻:新規のサービスはあるんですけど、既存のサービスではあまりないですね。僕がちょっと言って通用するほど簡単なことは、もう社員のみんなが議論を尽くしているので、僕がジョインしても付加価値がそこまでないんですよ。

渡辺:寂しくないですか?

辻:寂しいですよー!(笑)。サービスをつくっている時は、本当に楽しかったですし。でも結局、得意な人がそれぞれ得意なことをやればいいんですよね。それでチームがまとまればベスト。サービスをつくっている時は確かに楽しいけど、僕は得意な「経営」で社長という役割をしっかりやらなければいけない。

渡辺:どこかにつくり手としての自分がいないと、社長業って面白くないのかも。

辻:もちろん、社長業が面白い人もいるんでしょうけどね。潤平さんもコピーを書くのが楽しいからずっと続けてきて、その能力を最大化するために会社をつくって、トップになっているわけで。社長をやるために会社をつくっているわけじゃないですよね?

渡辺:その通りです。つくり手としての環境をベストに持って行くために会社をつくりました。僕はもう社長業は放棄していて、じつは会社の売上さえちゃんと把握してないんですよね。それは社員を信頼しているから任せられているんですけど。

辻:潤平さんの仕事は、お金の匂いがするとピュアじゃなくなりそうですよね。

渡辺:だからお金についてあまり知りたくないのもありますね。極端な話、同じコピーを書く作業でも、フィーがひと桁ちがう時だってあるんです。かと言って、力の注ぎ方を10対1にするわけじゃないから…やっぱり、知らないほうがいいんじゃないかっていうのが僕の考えです。

次ページ 「敷居の「低さ」を大切に」へ続く

前のページ 次のページ
1 2 3 4
渡辺 潤平(コピーライター/渡辺潤平社代表)
渡辺 潤平(コピーライター/渡辺潤平社代表)

渡辺潤平(わたなべ・じゅんぺい)
コピーライター。渡辺潤平社代表。1977年生まれ。千葉県船橋市出身。早稲田大学教育学部卒業。2000年博報堂入社(第2MD局、第3制作局、第2CRセンター第5制作室)、2006年博報堂退社、同年6月よりground LLCへ参加。 同年12月よりフリーランスとして活動開始。2007年に渡辺潤平社を設立。

渡辺 潤平(コピーライター/渡辺潤平社代表)

渡辺潤平(わたなべ・じゅんぺい)
コピーライター。渡辺潤平社代表。1977年生まれ。千葉県船橋市出身。早稲田大学教育学部卒業。2000年博報堂入社(第2MD局、第3制作局、第2CRセンター第5制作室)、2006年博報堂退社、同年6月よりground LLCへ参加。 同年12月よりフリーランスとして活動開始。2007年に渡辺潤平社を設立。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ