ローカルブランドが台頭
――グローバルの視座で生活者や消費市場を捉えるにあたって、注目している点は。
「ミレニアル世代」(1980年代半ばから2000年代初頭に生まれた世代)の目を通して世界を見ることです。彼ら、彼女らは幼い頃から携帯端末やソーシャルメディアに親しみ、世界と容易につながってきた初めての世代です。
一方で、この世代は自分たちの地元、つまりローカルへの関心も高い傾向にあります。他の世代と比べ、地元にとどまる平均年数が長いのです。グローバルとローカルのバランスの取れた、これまでにない世代と言えます。
グローバルに展開するクライアントに私がアドバイスするのは、それぞれの地域で共感されるためのコミュニケーションを怠ってはならないということです。ローカルブランドがかつてないほど力をつけてきています。それは、世界で標準化された製品やブランドというだけでは必ずしもミレニアル世代の心を捉えきれていないということを意味します。
――ミレニアル世代は、特に米国でボリュームゾーンになりつつあるようですね。
今後20年~30年、ますます力をつけていくと考えています。米大統領選が近づいていますが、政治家にとっても真剣に考えなければならない存在と言えるでしょう。もちろんマーケティングの世界もそうです。公平性を重視するこの世代は、我々の世代とは考え方が明らかに異なり、ある意味で成熟しているとも言えます。
――世界の中で注目している市場は。
やはり今後の成長が見込めるアジア市場です。中国やインドだけでなく、インドネシアやパキスタンなどは中産階級が急増しています。
オグルヴィ・アンド・メイザーは、世界経済をけん引する12の成長市場を「VELOCITY 12」(*)と位置づけたレポートを6月に発表しました。そこで注目した12とは、中国、インド、インドネシア、フィリピン、ベトナム、バングラデシュ、ミャンマー、パキスタン、エジプト、ナイジェリア、メキシコ、ブラジルです。
VELOCITYとは「速度」を指しますが、規模だけでなく成長のスピードに着目したことや、人々の生活の変化の速さなどの意味を込めています。
この12市場の総人口は世界人口の半数を超えており、今後10年間で、そこに新たな10億人の中流層消費者が生まれます。収入の分配から考えると、これは世界がより平等になっていくことを意味します。中流層がマイノリティからマジョリティに転じることで、経済において重要な役割を果たすだけでなく、社会変革を担い、政治的な影響力も持つでしょう。企業やブランドとも新たな関係を築いていくことになります。
*)「VELOCITY12」で扱う「中流層」とは、1人当たりの年間所得およそ4,000~40,000 PPP dollarsの層を指す。PPP(購買力平価)は、 為替レートに影響されることなく異なる国々の消費者の出費や購買力を比較する指標で、最近の試算では1PPPドルは1米ドルに相当する。