日本のマーケティング環境が生み出すジレンマ
1月に実施したアンバサダーサミットでも講演をしてもらったのですが、「さとなお」こと佐藤尚之さんが執筆された『明日のプランニング 伝わらない時代の「伝わる」方法』という書籍では、ソーシャルメディア時代では誰でもが情報発信者になった結果、ネット上の情報量が加速度的に増え、99.996%の情報はもう伝わらない時代になっており、1つの情報を見つけてもらうのは全世界の砂浜の砂の中で1粒の砂を手にとってもらうぐらい絶望的な出来事で、単純に広告を出せば生活者に伝わるなんていうことはもう絶対ないという「圧倒的絶望」から始めよう、という表現が出てきます。
この感覚を共有できるかどうかが、アンバサダープログラムのような活動の価値を社内的に感じてもらえるかどうかの一つの分岐点ということが言えそうです。
100万人に広告を表示したこと≒100万人に「リーチ」した≒100万人に届いた。
ということであれば、話は簡単なのですが、実は届いていないのではないか?という問題意識を持っているかどうかによって、従来通りの「量」を重視した広告手法のままで良いと考えるか、「質」を意識したコミュニケーション活動にあえて挑戦するかどうか、が変わってくるように思います。
ただここで難しいのは、届いているか届いていないかは、情報を発信している側からするとなかなか手応えとして見えにくい点でしょう。
さらに日本でややこしいのは、さとなおさんが書籍で解説されているように、実は日本人の半数以上はソーシャルメディア時代を生きておらず、今まで通りのマスメディアを中心に生活しているため、この人たちには今まで通りマス広告が届く、という点です。
従来通りの広告手法が効かないわけではなく、効く人数が少なくなっているだけ、という意味では、従来の手法も重要であることには変わりありません。
そういう意味では、従来の広告は全く届かない、というのも嘘になりますし、新しい取り組みにおいても届くかどうかはやってみないと分かりませんから、同様に届かないリスクがあることになります。
そこで、社内で従来通りの「量」を重視した広告手法と、「質」を重視したコミュニケーション活動がリソースの取り合いになってしまうと、従来通りの広告手法の方が理解してくれる人が多かったり、KPIが明確だったりしますから、結果的になかなか新しい手法にリソースは割けない、ということになってしまうわけです。
参考:日本の広告主と広告代理店がこれから直面していく「イノベーションのジレンマ」とは?
そういう意味で、アンバサダープログラムのような、「質」を重視した新しい活動にチャレンジする企業担当者に求められるのは、日本のマーケティング環境の構造が生み出すジレンマを認識し、それを乗り越えていくためにどうしていけば良いのか、小さい実験を繰り返しながら手応えを得て、それをもとに社内に理解者を増やし、目に見える小さな成功につなげていく、という根気である、ということが受賞者から感じた一つの結論でした。
なお、1月に実施したさとなおさんの講演の一部は、こちらで公開されていますのでぜひご覧ください。