八木敏幸が語るディレクター道「ディレクターに必要なのは粘り強さと客観性」

CMの中に時代性や人生を描き込みたい

自身の手がけた作品の数々を振り返りながら、八木さんは根底にあるCMへの思いを語った。「CMは商品を伝えるツールですが、それだけでなく商品とは別に、時代性や人の人生といった異なったものを描きたいと思っています。それが人をひきつけると思うので」。

そんな八木監督の思いを直接感じ取ることができるのが、ダスキンのCMである。不祥事の後で、ダスキンのイメージを向上させるため制作されたCMだ。ちゃぶ台を囲んだ老夫婦。おばあさんの知らぬ間におじいさんは、茶柱が立った自身の湯飲みとおばあさんのものを交換する。そんなことを知らずにおばあさんは、湯飲みの中で立ち上がった茶柱を見つけ笑顔をこぼす。「あなたの喜ぶ顔が見たい」そんなメッセージを体現した30秒となっている。

いつものユーモア路線とは異なる、木漏れ日のような暖かさと優しさがあふれている映像に「出演しているおばあさんの幸せそうな笑みがとても印象です」と足立さん。「見た人から『感動した』と言われたことに驚きました。笑いと同じように涙も人の心を動かすんだと思いました」と八木さん。このCMは、後の宇宙人ジョーンズのストーリー作りにも大きな影響を与えた。

最後に会場の参加者へメッセージが伝えられた。「ディレクターと名乗るのは簡単だけど、ディレクターと認められるのは時間がかかります。あきらめずに粘り強く頑張ってほしい」。絶え間ない努力と同時に必要なものとして、「客観性」を挙げる監督。「自分自身を俯瞰して見ることができる客観性、もうひとりの冷静な自分を常に持つことが大切です」。そんなアドバイスの言葉と共に、第2 回「チャレンジャーdeないと」は幕を下ろした。

八木敏幸監督のディレクター道:

  • 人をひきつけるために、CMの中には商品とは別に「時代性」や「人生」を描く
  • 絶え間ない努力と共に、自分自身を俯瞰して見ることができる「客観性」が必要

八木敏幸(やぎ・としゆき)

大阪生まれ。TCJ大阪を経て、1997年よりフリー。主な監督作に、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」シリーズ、TOYOTA「ドラえもん」シリーズ、日清食品 どん兵衛、オトナグリコ「25年後の磯野家」、リクルート Hot Pepperなどがある。


八木敏幸監督が選んだスペシャルゲストは・・・秋月成美さん!

秋月成美(あきづき・なるみ)
1996年神奈川県生まれ。2011 年 第7回「東宝シンデレラ」オーディション審査員特別賞受賞。主な作品に映画『悪の教典』『僕等がいた』『Another』(2012 年)、『バケモノの子』、『幕が上がる』(2015年)、ドラマTBS 日曜劇場『99.9 – 刑事専門弁護士-』、日本テレビ『ヒガンバナ』などがある。広告では、トンボ学生服 オリーブ、スカパー!「スカパー!映画部 夏の100本」、ACジャパン「支えあったら、人になる編」、集英社文庫「ナツイチ 2016」などに出演。

今回のスペシャルゲストは女優の秋月成美さん。映画『幕が上がる』や『バケモノの子』での出演など、新進気鋭の女優である。そんな彼女は今年でデビュー5年目。2011 年「東宝シンデレラ」特別審査委員賞を受賞して以来、現在に至るまでの5年間を彼女はこう語った。

「賞を受賞するまで、受動的にしか生きたことがなかったように思います。でもデビューが決まってからはとても自発的になりました。はじめこそ監督に言われるがまま演じていましたが、最近では自分で考えて役作りもできるようになりました。少し大げさかもしれませんが、この仕事と出会えたことで、生きている意味を見つけたような気がします」。

八木監督はデビューしてすぐの彼女をテレビで見かけ、その瑞々しさと純粋さに一目で心を打たれたそうだ。その頃を思い浮かべながら秋月さんに言葉をかけた。「14 歳の頃も素敵でしたが、今も純粋さは変わらないですね。この時代にSNSを使っていないと聞きましたが、自身で情報を直に感じ、判断するという姿勢に女優としての資質と可能性を感じます」。

今後の自身の目標について秋月さんは「演じる役や監督の求めるものによって、何色にでも染まれるようになりたいです。それでありながら、確かな芯を持つ女優になりたいです」とコメント。ドラマや映画、そして舞台へなどさまざまな経験を積む女優・秋月成美さんの挑戦は続く。

【関連記事】「中島信也が語るディレクター道 — 映像クリエイターのための「第1回チャレンジャーdeないと」始まる」はこちら

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