—本作では、育児休暇から復職した主人公が、広告会社の営業開発部長として働く姿が描かれています。テーマの設定理由を教えてください。
近年、政府は「女性が輝く日本をつくるために、上場企業においても積極的に役員・管理職に女性を登用していく」という経済再生案を掲げていますが、それが本当に実態を伴っているのだろうか、という疑問から企画がスタートしました。あるとき、「女性は本当に出世を望んでいるのか?」という意見を目にしたことがあって、これは面白いなと思ったんです。一般的には、出世は望ましいことだと思いますが、家庭のある女性にとっては「母親としての自分」「上司としての自分」と、役割が増えすぎてしまう場合もあるんですよね。
広告業界を舞台にしたのは、一般的に知られているようで、実は知られていない世界だと感じたからです。「CMをつくっている人たち」「CM以外にも何かをやっている人たち」という漠然としたイメージしか持たれていないのではないかと。クリエイティブ職に焦点を当てると「CMをつくる会社」という一般的なイメージ以上のものにはならないと思い、あえてどの業界にもあり、人と交渉したり向き合ったりしなければいけない業種である「営業職」に焦点を当てました。
ただ、やはり一般の方にとっては遠く感じられてしまう業界なので、新入社員でコピーライター志望の神崎あすか(足立梨花)に、広告会社の基本情報について質問させることで、視聴者の知識を補っています。主人公が元クリエイティブディレクターで営業については全くの素人ということも含め、広告会社の仕事についても、広告会社の営業職についても視聴者が一緒に学べるようにしています。
—制作にあたり、広告業界のイメージは変わりましたか?
広告会社の営業職の方々にヒアリングして驚いたのが、直接的な利益よりも「社会貢献をしたい」「世の中を良い方向に向かわせたい」という高い志を持っていたことです。さらに忙しい業界なので、実際は家庭や子育てと仕事の両立は難しいだろうと思っていたのですが、子育てをしながら働いていらっしゃる方がたくさんいらっしゃったのです。その姿を見て、「産後復帰」というテーマに自信を持つことができました。
一般の方から「華やかな世界」とイメージされがちな広告会社のリアルな世界をドラマとして表現するにあたっては、多少脚色をしています。日々の積み重ねによって成り立っている広告会社の仕事を、ドラマでは一瞬で描かなければなりません。
ですから、広告業界で実際に働いている方たちから見ると「そんなことはやらないよ!」とか、「ちょっとそれは…」という場面があると思います。例えば、マーケティングの場面では、営業開発部は自らの足で情報を集めますが、本当はマーケティング部に依頼して情報を得たほうが、効率良く質の高い情報が得られます。しかしドラマの中で、それをありのまま描いてしまうと、ただ人にお願いをして返答があるという形になってしまうので、あえて泥臭い演出を加えました。
一般企業の友人からは「本当にこんな感じなの?」と言われることもありますが、広告会社の方々からは、「こういう個性の強い人いるよね」といった共感の声をいただくこともあり、嬉しいです。
—三竿さんから見た、広告クリエイティブの世界とは?
「瞬発力」のある人たちの集まりだと思います。とにかく頭の回転が速くて、インプットもアウトプットもスピーディ。質問を投げたらすぐに返答してくれるというように、悩む間がないんですよね。きっと、日々の業務を通じて訓練されているからだと思います。
ドラマをつくる側には「持久力」が求められていて、肝のシーンを描くためにも前段や余韻を入れることができますが、グラフィック広告やCMとなるとスペースや時間の制約があります。言葉も短く、意味の強いものにしなければいけない。それがすごく難しいと思いました。今回、ドラマの中にもCMが出てきます。CMを考えてみようと知恵を絞ってみたものの、やはりつくれませんでした。今まで何気なく見ていた広告も、最近は真剣に見るようになりましたよ。
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