プロトタイプをどうビジネスにつなげるのか?博報堂アイ・スタジオ、PARTYとライゾマがゲストのセミナーで新概念「P2B」を発表

プロトタイプのマネタイズには何が必要なのか

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須田和博氏(博報堂エグゼクティブクリエイティブディレクター)

須田:今回はプロトタイプをどうビジネス化していくのかをテーマに3つの質問を用意しています。まず1つ目の質問は、技術をプロトタイプする時に、大事にしていることは何かです。PARTYの中村さんから回答をお願いします。

中村:苦手な領域と得意な領域を自覚して、きちんと切り分けることが大事です。例えば、私たちはハードウェアのプロではないので、小型化することでメリットが生まれるIOTデバイスなどは得意ではなく、一方で、オンスクリーンものやコミュニケーションなどソフトウェアに関する領域は得意で、既存のメーカーよりメリットが出せるのではないかなと。

クライアントはハードウェアに関する領域はプロフェッショナル。わたしたちはソフトウェアが得意。お互いに苦手な領域を得意な技術で補い合うような関係をつくることが大事だと思います。

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齋藤精一氏(ライゾマティクス 代表取締役)

齋藤:ライゾマティクスでは、何よりもスピードを大事にしています。プロトタイピングで一番してはいけないことが企画書の制作、まずは作り始めることが重要なのです。

当社ではさまざまな専門分野の人がいて、必要な人材や機材が揃っているため、思いついたことをすぐに取り掛かれる環境があります。ただ一方で、好きなものを作りなさいと言っても誰も作ろうとしない。そこで、自主開発ではなくクライアントと案件化するようにしています。

そして、スタッフのモチベーションが高まるように、どれだけチャレンジングで新規性のある企画にしてエンジニアにパスするのか、というのも重要なポイントです。

望月:プロトタイピングを始めるきっかけは、「この技術を使えるようになりたい」というマインドだと思います。そこで、まずは新しいテクノロジーに関するナレッジを社内でレクチャーして、学んだことをすぐにアウトプットすることですね。そこで大事になるのは、恥ずかしがらずにプロトタイプを人目にさらすこと、そしてそのフィードバックから学んでいくことが必要です。

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沖本哲哉氏(博報堂アイ・スタジオ 取締役常務執行役員兼ビジネスプロデューサー)

沖本:私はプロデューサーですので、その立場として大事にしているのは“いい塩梅で、口を出す”ということです。基本的に、プロトタイプづくりには、一切口を出しません。一方で、スケジュール管理は厳しくします。クリエイターを追い込むところと、放っておくところのバランスが“いい塩梅”になるように調整しています。

マネタイズにおける課題は何か?

須田:続いて2つ目の質問です。プロトタイプをマネタイズするとき、どんな課題に直面するのでしょうか?

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中村洋基氏(PARTY クリエイティブディレクター)

中村:プロジェクトがある程度大きくなると、開発時間や費用、社内での力学などさまざまな問題が発生して、必ず止まりそうになってしまう。中には、ローンチまでに2年以上かかってしまうプロジェクトもあります。

そこで必要なのは、誰よりも自分が先頭に立って推進していくことです。営業だけに任せずに、クライアントの要望を直接聞いて、応えるという当たり前な行為を、みなさんやりません。この手のプロジェクトは、責任者が先頭に立ち続けないと、うまくいかないように思います。

齋藤:私の場合は、そうした問題を回避するために、クライアントと必ず部署間を越えたワークショップを行うようにしています。広告宣伝部と商品開発、R&Dなどの部門間で、考え方や話す内容が違うといったことはよくあります。まずは、共通言語をつくるためにリテラシーの差異をなくして一緒に話をさせることからスタートさせるのです。

また、そのワークショップでは「どんどん失敗できるプロジェクトにしよう」ということも伝えています。日本では失敗することが良くないことだと思いがちなため、失敗に直面するとすぐにプロジェクトが止まってしまいます。失敗を重ねないといいビジネスが生まれない、という意識を持たせるようにします。

商品開発はチームづくりが大事で、その雰囲気が良ければ結果も良くなります。

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望月重太朗氏(博報堂アイ・スタジオ クリエイティブディレクター)

望月:プロトタイプづくりではスピードが重要なのですが、阻害してしまう要因は我われ広告会社側にもあります。例えば、クライアントへの最初の提出物もこれまでの習慣から120点以上のものを出そうとしてします。そのため、その後の修正に時間がかかってしまい、プロセスデザインがあまりうまくないのです。そこをクリアするためには、やはり齋藤さんが言うように、僕たちも失敗を重ねて学んでいくという姿勢を身につける必要があると思います。

須田:最後の質問になります。この先の日本で、プロトタイプからビジネスを成功させる鍵は何でしょうか?

中村:難しい質問です。わからないです(笑)。ただ言えることは、時代の要請に応えていく必要があるということでしょうか。僕で言うと、テクノロジーが大事というよりも、一緒になって“遊びのルール”のようなものをつくっていき、企業の課題解決をしていく感覚になります。

もともと「ものづくり」が得意な企業の人たちの商品開発に、僕らのようなコミュニケーション領域が得意な人たちが関わるということをしっかり考えていくことが重要です。昔で言うデジタルキャンペーンやスペシャルサイトのように、商品開発においてもクライアントのブランドや売上げに貢献し、結果を出していかなければいけないと思います。

齋藤:最近は一人の人間がデザインやプログラミングなど複数のナレッジを持ち合わせている「非分野主義」ということが当たり前になっています。プロトタイピングにおいてスピードと正確性を重視した場合、一番早いのはまず自分でやること。そこで、一人の人間としてどれだけの知識を持っているのかが成功の大きな鍵になると思います。

また、日本では、あるビジネスに参入する場合、スケールできることが明確になってからということが一般的で、まだ形になるかが分からない有象無象のものに対して投資する人は少ない。こうしたスタートアップ企業とベンチャーキャピタルの温度差を埋めていくことも大事だと思っています。

沖本:IoTなどはデジタルマーケティングが進化した、および深化した新しい領域であるため、当然ながら「リスク」と「費用対効果」という言葉がよく出てきます。これは必然的に、保守的な状態を指す言葉ですから、そこを打破するための仕組みやスキルをつくることが大事です。

また、これまでの議論にもあったように一人が担当する領域が広がっています。自分の担当領域を決めずに、あらゆる領域にクロスオーバーしていくことが大事になると思います。

望月:そうですね、誰もがメインとサブドメインを持つことが大事だと思います。自分が入社した2003年の頃は、一人でサイトを制作し、コーディングしてアップロードまで担当し、一人ひとりがプロダクションのようでした。さらに今では、リリースの文書も書くし、営業もして仕事を取るし、プロデューサーのようにチームをつくることも求められています。いま博報堂アイ・スタジオのテクニカルディレクターはプロジェクトマネージャーとして生産管理まで行っています。

こうしたクロスオーバーな能力を得るためには、部署やスキルの壁をとっぱらうことが必要です。そして、スタッフが自由に動け、それを見守る上司がいる、という環境が大事だと思います。

須田:本日のパネルディスカッションは、『P2B』というコンセプトで、いかにマネタイズさせていくのかという「ビジネス化」を中心に聞いてきました。先覚者の方々のお話を聞いて感じたのは、プロトタイピングを追求する真剣さから、それをビジネスにする知恵まで、全体をひとつのものととらえることの大切さが改めて分かります。

「プロトタイプ」と「ビジネス」の両輪をどう回していくのか、今後もこのテーマについてみなさんと考えていきたいと思います。本日はありがとうございました。

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