黒須さんに聞く「ヒットCMを連発するレシピ」
中村:黒須さんがヒットを連発しているレシピみたいなものにどうしても気持ちがいってしまいます。たとえばオーディションをたくさんして、良い子を捕まえることも1つの技能だとしたら、そういうことができるように主人公的な若い女子が真ん中に来るように企画やコンテをつくるようにわざと心掛けることもあるんですか?
黒須:そうですね。そういうところが多いですね。女子モノって、確立したジャンルが1つありますよね。かわいい子は広告的に有効です、とりあえず。なんらか作用する。ま、いい記号になるような女の子が見つかったら、アニメーションとか、ロジカルなものに行ったりたりするって感じですかね。
中村:ドコモダケはどういう思考でつくられたんですか?
黒須:オリエン返しみたいなことになるんですよね。「ドコモだけの施策を自慢したい」というオリエンがあって、「ドコモだけ」と2回書いてあったから、ドコモだけはドコモダケと。
中村:ギャグですね、ある意味。
黒須:そうですね。キャラクターをつくるときに考えたのはディズニーのキャラって日本語の吹き替えになるとよくしゃべるじゃないですか。ドコモも企業として言いたいことがいっぱいあるから、キャラクターがしゃべることになったらうるさいだろうなと思って、それはやめようと。
だから、口をバッテンにしてしゃべらないようにしたんですよ。わりとそこがよかったところかなと思います。あまりセールストークをバンバン言うということにはなってない。キャラクター自身は変な顔なのに好かれたのはそういうところかなと。でも、2年前ぐらいにしゃべったんです。今までの鬱積をぶつけるようにしゃべったやつを井口浩一監督とやって。
権八:あえて少しズラすのって表現の基本だったりしますよね。
黒須:そうですね。
権八:僕なんかだとストロングゼロというチューハイも一緒にやってますし、もうちょっと前だと「いい大人の、モバゲー」というモバゲーのCMを一緒にやらせてもらったり。あと、金麦は檀れいさんの主流ラインとは違うサイドラインで「それぞれの金麦」という、若い人達の群像劇みたいなやつもやったんですよね。それは僕も一緒にやらせてもらいましたが、檀れいさんの金麦はずっと野太く続いていて、すごいですよね。散々褒められたと思いますけど。
中村:金麦が長く続く秘訣というか、最初はどういうオーダーで、どういうことをプレゼンしたんですか?
黒須:「それぞれの金麦」は後から派生的に出たものですが、もともとの金麦は、オリエン返しというか、オリエン時に企画の骨格を決めた感じです。缶には「金」と「麦」という文字があるのですが、これはパッと見「キンムギ」とはすぐ出ない。「コンバク」とか読んじゃう。
それで金麦という音をちゃんと発声しようとしました。だから「きんむぎと、まってるー」と言うことに。あと、紺色は下手すると引っ込んじゃうから、それを前に押し出すために、あえて全面紺色バックにしちゃおうと。麦穂の輪っかの中に気になる人を置いて、「まってるー」と言いながら、画面の向こうに立ち去ると、テレビを見ている方々がそこに引き込まれるような構造を意識して。
カメラ目線でしゃべっていて、向こうに行っちゃう。紺色のバックと金麦という印象は残るという初期設定だけはしたんですよ。オリエンを聞いて、すぐにそれは思いついて。そこに檀さんという理想の妻的シンボルがいたのが素晴らしかった。あとは毎回の世界観を関谷宗介監督がつくってくれる感じで。
中村:僕らが思うのは壇さんが奥さんや彼女だったら、みたいなこと。それに相対する男目線、一人称目線で見るというのが印象的で。
黒須:僕的には二人称目線って言ってるんですよ。要するにカメラ目線でしゃべるとテレビの中の人が自分に向かってしゃべってる気がすると。見てる人の気をそそるやり方。
権八:金麦が成功してから、亜流がいっぱい出てね。でも、金麦はずっと残って。もう何年ですか?
黒須:10年近いんじゃないですか。ちょっと正確にはわからないけど。
権八:僕は檀さん大好きなんで、楽しみにしています。シズル感という言い方をしますけど、こんな奥さんがいたらいいなというところをずっと突いてくる感じがね。ひところは女性が見たら「何これ?」と思うような時期もね。
黒須:はしゃいだり、高揚する感じが出過ぎると、女の人から嫌われるみたいね。少し抑えめにする感じで。
権八:でも、長くやっていると今や女性ファンのほうが多いぐらいで。
黒須:そうですね、そういう感じがします。