試合中はスコアブック、望遠鏡でスタンドをチェック
渡辺:試合の経過は、常に追っていらっしゃるんですか?
谷保:じつは、スコアブックをつけながらアナウンスしてるんです。
渡辺:え!ご自分でですか!?
谷保:はい、自分でつけながらですね。
渡辺:ここからだと、試合中はスタンドがよく見えますよね。自分の声で沸き立つスタンドを見るのって、やっぱり特別ですか? それとも意外と冷静なんですか?
谷保:冷静にやっているつもりではいるんですけど、やっぱり選手の中でも千両役者が出てきた時の湧き方ってあるじゃないですか?例えば、抑えの西野勇士投手が出てくる時とか、お客さんも「ここは西野だろうな…」って分かっていても、アナウンスを待ってからワーッ!と沸いてくれる。あの瞬間は嬉しいですね。
渡辺:谷保さんのアナウンスって、間合いのとり方が絶妙だなと思うんですよね。
谷保:いいタイミングで得点が入って、スタンドが一気に沸く瞬間があるじゃないですか? そう言うタイミングで盛り上がるアナウンスをしようと思っているので、いつも望遠鏡でスタンドをチェックしているんです。
渡辺:そうなんですか…!じゃあ、試合中もお忙しいですね? スタンドを観察しながら、スコアブックもつけて、アナウンスもして。
谷保:「この回の終わりにはこういうCMが入ります」「ここでこのアナウンスをしてください」というビジョンチームとの進行もあるので、試合中は相当忙しいです。審判との選手交代のやりとりもありますしね。
渡辺:そんなに大変だったとは…でも、やっぱり楽しいですか?
谷保:この仕事のために会社に入ったので、やっぱり楽しいですね。
選手と同じように、準備を怠らない
渡辺:谷保さんのアナウンスは、もはや名人芸の域だと思うのですが、その分、代役がいない状況とも言えますよね。とは言え体調が悪かったり、気分が乗らなかったり、人間誰しも万全じゃないときがあると思うのですが。
谷保:気分が乗らないときは、楽しいものを見てテンションを上げるようにしてますね。声が出ない時は…海浜幕張駅から歌って通勤して、声を出しています(笑)。
渡辺:すごい!何を歌うんですか?
谷保:今はK-POPにはまっているので、自分の好きなアイドルの歌を歌いながら来ていますね(笑)。
渡辺:今までで一番のピンチというと、どんな時ですか?
谷保:2005年の最終戦ですね。ちょうど「ミスター・マリーンズ」と言われた初芝清選手の引退試合の日に、40度の熱が出てしまって。かろうじて喋れたんですけど、もうフラフラでした。風邪は引かないように、気をつけてはいるんですけどね。とは言え、手洗い・うがいをまめにするっていう基本的なことですけど。
会社に来る間でも、例えば電車の中で「風邪菌をもらったかな?」という気がした時は、球場に来てすぐにうがいをします。ロッテののど飴もそうですけど(笑)、殺菌系のものを舐めていますね。あとはなるべく睡眠を取ったり、お腹を壊さないように危ないものを食べないようにしたり。
渡辺:年間を通してコンディションやモチベーションを維持する秘訣は、どこにありますか?
谷保:自分もお客さんになる時があるじゃないですか? それこそK-POPのコンサートへ出かけるときには、その日をとにかく楽しみに待つ。それと同じように、お客さんもこの球場に来るこの日を楽しみにしていますよね。私にとっては毎日同じことが続いていても、お客さんにとっては特別な一日なんだって考えて、いつも明るい声を出すことを心がけていますね。あとは長年仕事を続ける中で、準備には特にこだわっていて、全球団の選手の名前も覚えることはもちろんですけど、今日はこんな記録が達成されるんじゃないかというデータを調べたり、新聞をスクラップしたりしています。
渡辺:そういったことは、今も続けているんですか?
谷保:はい。この選手はこういうシチュエーションで起用される選手だとか、代走が多い選手だとか、そういったことを事前に頭に入れておく。それを怠ると不安になるので。そういった事前準備をしておくと、急な試合展開で突然選手が登場しても、どの選手かちゃんとわかるんです。試合がタイトになってくると、審判も交代を指差しで告げたりしてくるので。