誰にも言わずに、ひっそり辞めたい
渡辺:僕、すぐ近くの高校出身で、大学時代はここでもぎりのバイトもしてたんです。当時はお客さまが少なくて、内野自由席とかの担当になると、誰も来ないから試合が見放題で(笑)。
谷保:ガラガラでしたもんね。
渡辺:ロッテはもともと閑古鳥が鳴いていたチームでしたけれど、いろんな浮き沈みを繰り返しながら、ようやく人気チームに成長しましたよね。育っていくチームを見ながら、感慨深いものはありましたか?
谷保:それこそ、今、おっしゃっていたように、もぎりをしてた方が仕事として関わるぐらいの年月が経って、あの頃、子どもだった方が親となって、またお子さんを連れていらっしゃったりしてるんですよね。そういう歴史がずっと続いていけばいいなって、すごく感じますね。今のお子さんたちも社会人になって、結婚してまた来てくれればいいなって。
渡辺:その時にも、アナウンスを続けていたいと思いますか?
谷保:さすがにしてないとは思いますけど、でも、ずっとマリーンズを見続けたいですね。
渡辺:ご自分の最後のアナウンスの瞬間って、想像することはあるんですか?
谷保:想像はしないですけど、誰にも言わずひっそり辞めたいですね。「実は昨日で、最後でした」みたいな。
渡辺:でも、みんな絶対気づくじゃないですか。「あれ?今日、谷保さんじゃねーぞ」って。
谷保:でも、あんまり宣言すると泣いて試合にならないと思うので、こっそり辞めたいですね(笑)。
渡辺:谷保さんが辞められるときは、僕がポスターつくりますよ。カッコイイやつをつくりたいですね。
粘り腰で引き寄せた仕事
渡辺:このお仕事を選んだことに、後悔はありますか?
谷保:一切ないですね。むしろ、この仕事に向き合えたことに、本当に感謝してます。
渡辺:今、お話伺っていると、ご自分の粘りで引き寄せたお仕事ですもんね。
谷保:そうなんですよ。しつこい性格なんでね(笑)。
渡辺:それって、これから世に出る人たちに、いま一番足りていないことのような気がしてならないんです。そういう粘り腰精神に欠けるから、「はい、次」ってことになってるのかも。一つのことを長く続けてきた谷保さんだからこそ思う、これから働く人や、社会に出たばかりの人たちに対して感じること・伝えたいことをお聞かせいただきたいのですが。
谷保:何事も、カッコ良くはいかないじゃないですか? 悩んだり泣いたりもするでしょうし、それを避けようとしないで、辛いことに自分からぶち当たってほしいですよね。それによって何かが生まれることがある。失恋した時と同じように、悲しいとか悔しいとか、そういう壁を避けないで、ぶち当たってほしい。
渡辺:その先にあるものを、これまでの経験で掴んできたからこそですよね?
谷保:辛い思いをしたり、間違ったり、怒られたりすると、頭にきたり悔しかったりするんですけど、その後が変わってくると思います。
すごく明快で、力強いお言葉をたくさん伺うことができました。自分が「これだ!」と思える道を見つけたら、そこに向かってまっすぐに進んでいくこと。一度決めたことは、迷ったり悩んだり怒ったりしても、まずは続けてみること。続けていくために、自分をしっかりとコントロールし続けること。当たり前に聞こえるかもしれないけれど、続けることが本当に難しいことを、谷保さんは一つひとつ、強い意志で続けてこられた。僕自身も、大きな勇気をもらえた対談でした。中でも、就職活動時の「手紙」の話は、強く印象に残りました。サブロー選手の引退試合、多くのファンがきっと、谷保さんのアナウンスに涙を流すでしょう。その場面での谷保さんの姿を想像して、胸が熱くなりました。
非進化論的メモ
- 好きなことを仕事にするために、大切なのは「粘り腰」。
- 迷ったときは、その仕事を目指した頃の想いに立ち戻る。
- 心と体のコンディションを、しっかり管理する。
- 仕事以外の仲間と話をしながら、気持ちを上手に切り替える。
- 辛いことには自分からぶち当たる。そこから何かが変わる。