2人が考えるキャラ論。
みうら:キャラの話でいうと、ぼくもね、京都にいた頃はモテない連中の一人だったんですよ。だから上京してきたときに、キャラを変えたんです。だけどその後に、モテない連中が上京してきて「お前はそんなやつじゃなかった」と言うんですよ。その狭間で結構悩みましたね。でも、キャラって変えられるじゃないですか。
山本:キャラですねからね、いくらでも変えられますよね。
みうら:いい歳こいて、こんな髪型でサングラスしてるのも、キャラですもん。なんでこんなことをやっているのか、今はもうわかんなくなっているんですよ。夏場なんて汗をかくんで、髪がすごく邪魔だし嫌だなと思うんですけどね。ところがね、法事とかにサングラスをかけてこのままの格好で行ったら、オカンが「あんたはな、それがキャラクターやさかいな」と言うんですよ。いやいや、こういう場ではさすがにあかんでしょと(笑)。叱られようと思ってやっているのに、キャラだからと今度は全部肯定しちゃうんですよね。
山本:(笑)。京都のオカンはそうですよね。うちもそうですよ。
みうら:まあ結局、本当の自分なんてものはないから、色々な影響を受けたキャラが合体しているだけなのかもしれない。ぼくの場合は、ある時はセックスの話をしているのに、ある時は仏教の話をしているもんだから、「一体何なんだ!」みたいなことはよく言われますよ。でもいろいろなキャラがあっていいじゃないですか。
山本:それはすごく感じます。ぼくも大学で教えているときは、もう少しまともなんですね。難しい言葉遣いをして、学生に対してはやはり上から向き合います。まあプレイですけどね。でも仲の良いやつと飲みに行けば、完全に記憶喪失モードですから。一人っ子キャラも、怖いセンパイキャラも持っています。一人の人間がいくつものキャラをこなすんですよね。
みうら:それがキャラですからね。そういうキャラが立つ人って少なくなっていますよね。
山本:本当にそうですね。
みうら:小説やエッセイを書いている作家も、今はキャラが見えない人が多いじゃないですか、ある時から、書き手のキャラを出すことが抑えられるようになりましたよね。それは広告もそうかもしれないですよね。
山本:これはちょっと反省を込めて言うんですけど、広告ではね、今はもうキャラは衰退傾向だと思うんです。
みうら:出したらダメなんですか。
山本:つくり手がキャラの立った広告を出すと、それに対して必ず賛否や好き嫌いが起こるじゃないですか。強い主張とかは特に。賛はできるだけ多く、否はゼロにしといてよというのが、今の状況ですかね。考え過ぎならいいんだけど。
みうら:それはそうですね。
山本:だから、広告でキャラを押し出して何か指摘されるのは、炎上とかは避けたいよねというコンセンサスですかね。
みうら:その否がでるのはネットでしょう?ぼくはネットやっていないからわからないんだけど。やっていない分、否どころか賛も聞いたことがない。
山本:それにしても、広告の中にいると、つくり手にキャラがないというのは、久しぶりに聞きました。たしかにね、ぼくの書いているものも、昔の方がキャラがあったような気がするな。あれはお前が書いたんだろ?みたいなことを言われたり。反省します。
みうら:ああ、だれがつくったのかが、すぐにわかるみたいなね。ぼくはやっぱりキャラが見えたほうが面白いと思いますけどね。とはいえ、クライアントの人もネットを見ているんだろうし、なかなか大変な時代ですよね。そんなのこっちは聞き流しますけど、いまはスポンサーが気にしますよね。そしてすぐに降りてしまう。
山本:本当に言いたいことが言いにくい時代になっていますよね。でもだからこそ、やっぱりキャラは立てた方がいいんですかね。いやあ何だかみうらさんと話していると色々と説得されてしまいます。お話できてよかったです。ありがとうございました。
みうらじゅん
1958年、京都府生まれ。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。以来、イラストレーター、エッセイスト、漫画家、ミュージシャンとして幅広く活動。97年、造語「マイブーム」が新語・流行語大賞受賞語に。著書に『アイデン&ティティ』、『マイ仏教』、『見仏記』シリーズ(いとうせいこうとの共著)、『「ない仕事」の作り方』、『されど人生エロエロ』など多数。
山本高史
コピーライター
関西大学 社会学部教授。1961年京都府生まれ。1985年大阪大学 文学部卒。同年電通に入社。数多くのキャンペーン広告を手がける。2006年12月、電通を退社。コトバ設立。 オリンパス「ココロとカラダ、にんげんのぜんぶ」、三井住友海上「未来は、希望と不安で、できている。」、JR東日本「Suica」、トヨタ自動車、サントリー、資生堂、キリンビール、キユーピー、S&B、MS&AD、よしもとクリエイティブ・エージェンシー、インベスターズクラウド、カメヤマなど数多くの広告を手がける。
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名作コピーを紐解き、 広告を読むことで見えてくる「時代/社会/人間」。 そこにはいつもコミュニケーションの本質があらわれる。 コピーライターであり「言葉の専門家」でもある著者が語る、 渾身の広告・コミュニケーション論!