広告の未来における二つの流れ
そもそも、一人ひとりの顧客は決して「マスマーケット」としての大衆ではなく、さまざまな趣味趣向を持った多様な人間です。
そういう意味では、一人ひとり自分に最適な多様な製品やサービスを求めており、「マスプロダクション」による大量生産の商品は、実は一人ひとりのニーズや趣向と必ずしも完璧に合っているわけではありません。。
当然マス広告によるメッセージも、それが本当に刺さる人と刺さらない人が多様に存在しているわけです。日清食品 カップヌードルのテレビCM「OBAKA’S UNIVERSITY」が一部の人には喜ばれ、一部の人からはクレームの対象になったのが象徴的な出来事と言えます。
顧客の趣味趣向が多様化している以上、1種類で日本全国1億人に感動される商品やサービスの開発が難しいのと同様、1つのテレビCMで日本全国1億人の賛同を得ることは非常に難しい行為なわけです。
そうなると、同じテレビCMも一部の人には引き続き情報源であっても、他の一部の人にはノイズになることになります。
さらに悪いことに、ネットの普及で顧客の情報収集能力が上がった結果、広告経由で情報をもらわなくても情報がいつでも入手できる時代が到来しています。
売り込み的な宣伝メッセージは、顧客にとって、家事で忙しい時に必要のない製品を訪問して売り込んでくる空気を読まないセールスマンのような印象を受ける時代になってしまったのです。
実はマスマーケティングという手法は、一人一人の顧客視点で考えると、顧客視点ではなくあくまで企業側、売り手側の視点で最適な手法であって、顧客視点では最適な手法ではなかったというわけです。
現在のネット広告の未来は、この前提を受け止めると、二つの流れが重要になってくるのが分かります。
一つは、広告を「マス」ではなく細かくターゲティングして表示を出し分ける流れです。個人個人の興味のある内容の広告を細かく出し分けることができれば、自分に関係ないマス広告に比べると、ノイズ感は薄まるはずです。
もう一つの流れは、広告を従来のマス広告的な企業目線での宣伝メッセージではなく、もう一度「情報」や「コンテンツ」に戻そうという流れです。企業がペイドメディア一辺倒のマスマーケティング時代に対して、オウンドメディアやアーンドメディアの組み合わせにも注力するようになっているのも、この流れと言えますし、ペイドメディアにおける象徴的なトレンドと言えるのが「ネイティブアド」化でしょう。
広告自体が、空気を読まないセールスマンではなく、情報を教えてくれる存在に戻ることができれば、ノイズ扱いされずに済むはずです。
マスマーケティング全盛の時代に比べ、インターネット時代、ソーシャルメディア時代は一人一人の顧客と企業の力関係がフラットになった時代と言えます。
「広告」というものを、マスに大量に情報を届ける行為と考えるのではなく、改めて本当の意味の顧客視点で、どういう「広告」であれば顧客は喜んでくれるのかを考えれば、新しい「広告」の可能性が見えてくるように思います。