自らの経験を、次の世代へつないでいく
潤平:拓馬さんはこれから、いかにしてご自分の道を切り開いていきたいとお考えですか。まだまだ長い人生の中で、完全に新しいスタートラインに立っているわけですよね。
拓馬:僕自身、あまりプロスポーツ選手に向いてない性格だと思うんです。そこまで負けず嫌いじゃないし、「自分が自分が」ってタイプでもないし。でも、スポーツを通じて得たものはすごくあります。プレーだけでなく、人間同士の付き合いの中で得たものも、これからはどんどん生かさないといけないと思うので、苦手なことも挑戦したいと考えています。選手の時は、多少はアピールする武器があったので、自分からどんどん前に出て行かなくても見てくれる人がいたけれど、これからは自分から動いていかないといけないですからね。
潤平:これからの具体的な目標はありますか?
拓馬:今のところ指導者というよりは、子ども向けのバスケットボールスクールやアカデミーを設立する話が出ていて、うまくいけばその担当になる予定です。
僕も小学生の時にミニバスケットボールのチームで教えてもらったものが土台にあるので、小学生や中学生たちに教えたいっていう気持ちはずっと持っていました。選手時代、調子が悪い時に、当時のことを思い出してやる気を取り戻したことも多かったので、そうやって成長してくれる子どもたちも増やしていきたいですね。
スクールの数を増やすだけというのはしたくないし、やっぱり質を大事にして、遠くからでも通いたい子どもや、通わせたい親御さんが増えるスクールをつくらなきゃいけないと思っています。
潤平:バスケは今、ほぼ学校の部活動だけで、学校以外のスクールってほとんどないですもんね。
拓馬:「うまくなる」とか「勝つ」という目的だけじゃなく、思いやりっていうのを頭に置いてできればと伊藤ヘッドコーチとも話していました。スクールを卒業したり、バスケを辞めたとしても、その後もしっかりと生きていくような人間形成の土台を作っていける場所にしたいですね。
潤平:時間はかかるかもしれないですけど、それはすごく楽しみですね。
今日、拓馬さんとお話ししてみて、スポーツと広告って全く違うようでいて、人がやっぱり真ん中にいて、その上できちんと自分の成長を積み上げていけるかどうかなんだなと、共通点を感じました。
拓馬:どの世界でもそうだと思いますよ。結局、人間性が一番大事ですよね。
現役時代、3つのチームに所属して、チームの良い部分、悪い部分も経験して、ここでは言えないような揉め事なんかもありましたけど、そういった中でも生き残っていくスタッフ、コーチ、選手はみんな、人間性や土台がしっかりしてる人たちでしたからね。
結局、若いうちにプレーで注目を集める選手でも、人間性ができてなかったら、数年後、この世界に残っていないですよね。やっぱりそこなんだなって痛感します。そういったところを見て、自分の教訓にするじゃないですけど、ダメなことはダメだし、しちゃいけないことはしないっていうのを感じたことは、今後の人生ですごく生きてくると思いますね。
今でも趣味でバスケットボールを続けている僕にとって、拓馬さんは憧れの選手。こうやって二人でお話できたことだけで、舞い上がりそうなほど嬉しかったのですが、拓馬さんの言葉一つひとつが、僕が普段仕事を通して感じたり、考えたりすることと重なる部分がとても多くて、それが新鮮な驚きでした。
自分に対する自分自身の評価が低い。拓馬さんはその言葉を何度も口にされていましたが、それは謙虚さの裏返しなんだと思います。たとえ調子が悪くても、我慢して我慢して、周りを生かす。そうすることで結果、自分も生きてくる。
プレーヤーとして長く活躍できた秘訣は、サボらず続けてきた「基本練習」、そして何より「人間性」。そんな拓馬さんの経験と考えは、そのまま僕たちの仕事にも生きてくる、大切な大切な要素なんじゃないかと思います。
対談後、アルバルクの練習場で、拓馬さんとシューティングをしました。緊張して何度もシュートをミスしましたが、拓馬さんはその都度、的確にアドバイスしてくれました。本当に忘れられない一日になりました。
非進化論的メモ
- プロとしての技を支えるのは、地道な基礎練習。
- 自分を犠牲にすることで、最後は自分が生きる。
- 調子が悪くても、決して投げ出さず、我慢し続ける。
すると、流れが変わる。 - 何より怖いのは、情熱を失うこと。
- 最後は、人間性。