ユーザーが真の価値を見抜く時代
“商売”であるという認識を持ったブランディング活動を
ワークショップを終えて、松岡氏は、今の時代にブランドが消費者・顧客にアプローチすることの難しさをあらためて指摘した。「そろそろ、誰もが『ブランドが顧客と友だちのような関係になることはできない』と気づいていると思います。顧客は、友だちのような親しい関係性を、ブランドに求めてはいないのです」(松岡氏)。
友人や恋人、家族のような人間関係と、売る側・買う側がそれぞれのメリットを前提に行動する「ブランドと顧客の関係」は根本的に違う。
それゆえ、ブランドマネジメントにおいては「人対人のやりとりであるという認識」が欠かせないと松岡氏は強調する。それは、オートメーションされているか/人の手でやっているかということではなく、「どれだけ相手のことを考え、実行できているか」を指し、顧客はそれをシビアに評価しているのだという。
さらに、友だちのような親しい関係ではないからこそ「商売であるという認識」も同じく欠かせないと話す。顧客が商品を買うのは「その商品が自分のためになるから」。“仲良し”の関係を演出するのではなく、顧客の望むものが常に置いてあるか、売り方は適切か、など、商売として顧客のためになっているかを常に考える必要があると話した。
「現代のユーザーは、ブランドの真の価値、本当の姿を見抜く目を持っている」と松岡氏。情報発信に何らかのビジネス上の目的があることは、消費者や顧客にも見えている。ブランドから発信されるメッセージやコンテンツに、極めて強く共感・感動を覚えない限り、「このブランドはすごい!」「好き!」と感情を動かし、行動を喚起することはできないのだ。
だからこそ、消費者・顧客へのアプローチにおける一つの拠り所として「自分だったらどう思うか?」を考えることが重要だ。自分が心から「良い」と思えるかどうか。これが、一つの判断基準になると、松岡氏は述べた。
松岡氏が何度も強調したのは、「消費者は、見せかけの“仲良しの関係”の裏にある、企業側の目的を見抜く目を持っている」ということ。ブランドやブランディングは、より効率的・安定的に商品を売るための戦略であるという前提を認識し、「これは商売である」と、いま一度強く認識する必要がある。あたかも親しい人のような、偽装した関係を築くことに力を注ぐのではなく、「売る人」「買う人」という間柄の信頼関係を築くことに勤めるべき、と松岡氏は呼びかけた。
取り組みを「見える化」し、周囲を巻き込む
消費者・顧客への効果的なアプローチの事例をいくつか紹介した上で、河野氏は「認知を広げるにはリスクをとることも必要」だと述べた。「下世話なことや格好悪いことは諸刃の剣で、リスクが増える分、相手の心を打つ可能性も高い。『伝わる』ことのハードルが高くなっている今だからこそ、リアリティのあるメッセージや、“攻めた”メッセージが消費者の心を掴むケースも増えています」と説明した。
もちろん、ブランドに致命的なダメージを負わせないよう、そうしたアプローチは、あくまで戦略的に行う必要がある。そこでも、「カスタマージャーニーマップ」が重要な役割を果たす。自分たちは誰で、顧客はどんな人たちで、どこにいて、彼らに自分たちはどう伝えていくのかーーマップをつくることは、こうした戦略を持つということでもある。マップでブランドの全体像・戦略を可視化し、「ここまでは、やってもいい」ということをまとめたうえで、個々のクリエイティブに落としていくことを推奨した。
勉強会の最後に、河野氏は「今日つくったカスタマージャーニーマップを持ち帰り、社内の人に見せて意見を聞いてみてほしい」と促した。「まずは『自分たちがこういうこと、つまりブランディングをやっている』と人に伝えることが非常に重要なのですが、意外とやっていない人が多いのです」と話し、周りの人を巻き込んで少しずつ前に進めていくことが、ブランディングにおいて大事な意識であると呼びかけた。
自分たちの試みを周りに共有し、全社で推進していく空気をつくること。それが社内を動かし、企業の中からブランドを変えていくことにつながる。河野氏は、このように第2回の勉強会を結んだ。