アンバサダーとの共創がプログラムを支えている(ネスカフェアンバサダー)

アンバサダーの声がプログラムを支えている

藤崎:アンバサダーからの具体的なアイデアや建設的な提案について教えてもらえますか?

津田匡保(ネスレ日本 Eコマース本部 ダイレクト&デジタル推進事業部 部長)

津田:アンバサダーとの記念すべき第一回目のミーティングで一緒に作ったサービスをご紹介します。これは私たちの課題を解決しながら、どうしたらアンバサダーのみなさんに、よりご利用いただけるのか、という大事なミーティングでした。

当時、私には悩ましい問題がありました。ネスカフェ アンバサダーは、最初、マシンを提供する条件として「ネスレ通販でカートリッジを1回は買ってください」という仕組みで始めましたが、実際に始めてみると、応募数も多いかわりに、離脱も大変多かったのです。

私たちとしてはより多くの人にコーヒーを楽しんでもらいたいという思いから、低いハードルに設定したわけですが、離脱者があまりに多いと、コストの関係を考えざるを得なくなります。つまり、このままではやっていけなくなるのではないか、という話が社内で出始めました。そこでやはり「定期便」のような運営にしなければいけないのではないかということになりました。ただ「カートリッジを1回は買ってください」という条件に比べて「定期便」は一般的にはハードルが高いイメージがあり、どうしたものだろうと思案していたわけです。

藤崎:なるほど、それは悩ましいですね。

津田:そこで、アンバサダーのみなさんに当社まで来ていただいて、悩んでいる状況を素直にお伝えし、意見を求めました。「定期便サービスについてどう思うか」「どんな内容だったら離脱しないで続けてもらえるのか」などです。

藤崎:そのこと自体素晴らしいですね。アンバサダーのみなさんにそこまで大事なことを相談するというのは、従来では考えられませんよね。

津田:アンバサダーのみなさんから、「自分はどういう条件なら残るか」、たくさんのご意見をいただきました。まずはお買い得であること。フレキシブルにして欲しいということ。数の縛りもなくした方がいいこと。「ネスカフェ バリスタ」だけでなく、「ネスカフェ ドルチェ グスト」や、「キットカット」も一緒に購入できれば便利といった、たくさんの要望が集まりました。

藤崎:それはそれで、要望が集まりすぎるということはなかったのでしょうか。

津田:いえ、せっかくの機会でしたので、どうしても無理なことを除いて、できるだけみなさんのご要望にお応えしようと思いました。今、実際に運営している「定期便」の仕組みは、その時のみなさんのご要望から生まれています。つまり、ネスレの各商品をお客様の好きな個数だけバスケットに入れて、さらにお届けの頻度も選べるようにしたのです。おそらくこのような定期便サービスをやっている会社は他にないと思います。

藤崎:確かにいろいろ買えるというのは、すごいですね。

津田:ただし、バスケットのサイズが4千円以上にならないと送料は無料になりません。そこで、現在は大体の人が4千円のバスケットを作り、あとは頻度に合わせて商品や数量を選ぶ形が多いですね。

藤崎実

藤崎:金額設定に関しては、例えばユーザーからすると「4千円は高いから2千円からにして欲しい」という意見がでるのは容易に想像できます。メーカーとしては、いろいろな商品をワンパッケージにしてお送りするためには、ある程度の金額でないと無料発送はできないという事情もありますよね。

津田:そのバランスは本当に重要です。いくらだったらみなさんは定期的にお支払いできるのか、という金額感はミーティングでも議論になりました。ただ、みなさん働いていらっしゃる方々で、消費者としてはカートリッジ1本から無料発送にして欲しいけれど、それではアンバサダープログラムそのものが破綻してしまう可能性やビジネス事情もある程度わかってくださるわけです。

藤崎:津田さんがいろいろな情報を開示して、アンバサダーのみなさんに一緒に考える仲間になってもらったから、そこまで親身なディスカッションができたのではないかと想像します。とても理性的な関係ですね。そうしたギリギリの議論の結果、4千円だったらという結論になったわけですね。アンバサダーのみなさんが「それはそうだよね」と納得されたことも含めて大きな成果だと思います。

津田:それが私にとってアンバサダーさんと初めて一緒に作ったサービスでした。実際にそのサービスが導入されてからは、ほとんど離脱がありません。

藤崎:それは本当に素晴らしいですね。

津田:そのミーティングで、私はアンバサダーのみなさんと何かを一緒に作っていく大切さや価値を確信しました。

その後、社内の他のプロジェクトであってもユーザーの意見が欲しい時には積極的にアンバサダーのみなさんのお力を借りるようにしています。例えば、社内の製品開発で、何か女性向けの新飲料を考えようとしている時に、アンバサダーの方に来ていただいてプロジェクトに入ってもらったり、絵を描いてもらってこんなパッケージが良いとか、そんな座談会をやったりもしています。

また、キットカットでこんなフレーバーがあったらいいなとか、こんなサービスがあったらいいな、などということも話し合ったりしています。

藤崎:最近、「お客様との共創」という言葉が、まるで時代のキーワードのようによく使われます。その場合、一般的には「商品開発」などをさすことが多いようです。でも津田さんの話を聞いていて感じたことは、「商品開発」のような高い目標を掲げなくてもお客さまと一緒にできることはたくさんありそうだということです。そもそも一緒に話をすることが大事なのだなと感銘を受けました。

また、さまざまな成果を挙げている理由として、メーカーと消費者という関係を超えて、情報を開示して一緒にやっていこうという姿勢そのものが、アンバサダーのみなさんを仲間にしているのだろうなと思いました。

津田:姿勢は、すごく大事ですね。こうしたインタビューでは伝えるのが難しいのですが、アンバサダーのみなさんはお客様です。それでも、必要以上にこちらから壁を作らないことも大事です。商品やサービスを巡って、どうしたらいいのかと議論する時には、ある意味、仲間として対等になってもらう必要もあります。座談会やミーティングでの、そういう空気感の作り方はすごく難しいですし、ノウハウも必要なことだと思います。

私たちはアンバサダーさんと、ワークショップをやったり、サンクスイベントのようなこともやりますし、一緒にボランティア活動をしたり、いろいろ一緒に活動していますが、アンバサダーのみなさんとの本音で話せる関係づくりはとても大事ですね。

藤崎:ネスレさんのアンバサダープログラムが成功している理由として、そうしたお客さまとの“本音で話せる関係づくり”があるのですね。そのことに、企業とお客さまとの新しい関係が始まっているのを感じます。

次ページ 「アンバサダーの方々と顔を合わせる重要性」へ続く

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藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)
藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

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