プラットフォームは冷たい?
藤村:実は、私は“プラットフォーム”という言葉が嫌いなんです。スタッフにも、「プラットフォームと名乗るな」と話しています。それは、出版社に勤めていたときにプラットフォーマーと向き合ったものの、コミュニケーションにならなかったという苦い経験があるからです。
外から黒船のようにやってきて、その都度一方的にルールが変わってしまう。そのようにコミュニケーションが双方向的にならない場合だと、各メディアでコンテンツをつくる方々、あるいはそれを運用する会社として、全幅の信頼を持って取り組むことはできないと自戒を込めて思ってきました。
山田:それはよく分かります。様々なメディアから記事を掲載してくれないかという依頼があり、それぞれ個別に担当者を決めてやり取りしているメディアが25から30くらいあります。ただ、そこでいわゆる「プラットフォーム的」な振る舞いをしないように気をつけています。記事転載や記事交換はお互いに納得をした上で進めるべきものなので、こちらのルールを説明するだけでなく、パートナーの要求もよく聞くようにしています。
藤村:やはり電話をかければ、「ハイ」と出てくれて、メールをすれば返信が来る。相談となればいろいろな議論をしながら、物事が双方向のコミュニケーションによって決まるという仕組みをつくりたい。おそらく、世の中で言われているような、“プラットフォーム”という格好いい言葉とはあまりそぐわないところだと思いますが、私自身はなるべく、各メディアとのコミュニケーションを重視して、相談しながらできることをしていきたいと思っています。
山田:プラットフォームとメディアでも互いに良い影響を与えることはできると思います。例えばYahoo!さんはプラットフォーム的な立ち位置もありますが、「news HACK(ニュースハック)」というオウンドメディアを立ち上げて、自分たちで取材をするということによって、プラットフォームとしての機能にもいい影響を与えていると思います。「やはり取材というものはこういうものなんだな」と、リアルタイムで得ることができていると。
有吉:ニュースの出し方についてもいろいろと試行錯誤しながら進めています。近年、Yahoo!ニュース トピックスだけでは伝えきれないと考え、事件・事故など進行中の情報をタイムラインに沿って追加できる「ライブブログ」プラットフォームを昨年立ち上げました。英国のEU離脱や熊本地震といった情報発信で活用されています。
また、昨年「メディアステートメント」を発表したことも各所で話題にしていただきました。スマートフォン版のYahoo! JAPANトップページをタイムライン型のデザインに刷新したことによって編集の手を介していないコンテンツも読者に届くようになったので、改めて当社の立ち位置を明らかにしました。
藤村:コンテンツをつくらない私たちの立場からすると、メディアという、コンテンツクリエイターの立場には当然なりえません。自分たちのなるべき役割は、“顔の見える存在”になりすぎないこと。つまり、もしも我々の行使できるフィルターがあるとすれば、薄皮のように非常に薄いフィルターでありたい。メディアの方々に自分たちの方向性やビジョンを突き付けるということは、私たちのスタンスとは合いません。良質な記事を届けていくことに徹したいので、メディアの皆さんと向き合い、ともに生きていくパートナーというのが私のイメージ。それは世の中でいう、“プラットフォーム”という語感とはそぐわないかなと思います。ただ、これを何と呼べばいいのかは、まだいい言葉が思いついていませんね。
山田:我々は基本的に読者が知りたいと思うことを、代わりに調べてあげて届けているんです。本来であれば読者自身が自分でコンタクトして、疑問に思ったことを調べるところですが、読者も忙しいですからそれを代行して分かりやすく届ける。そして、そこには読者にとって“心地の良いメディア”と“心地の悪いメディア”があると思います。東洋経済オンラインは、その“心地の良いメディア”になっていきたいなと。
>詳細・購入はこちら(Amazon)
「広報会議」2016年11月号
[巻頭特集] デジタルで変わったニュースの流通構造
ネットニュースでの記事本数、SNSでの拡散・シェア数……広報活動の成果をはかる指標の一つとして、多くの広報担当者がウェブ上の効果測定を日々の活動に取り入れるようになりました。一方で、ウェブ上のニュースの流通構造は日々変化しています。今回は、記事クリッピングやソーシャルリスニングに取り組む際に押さえておきたい、変化するメディアの現在に迫ります。
〈特別編〉次世代メディアのキーパーソンたち
「プラットフォーマーとメディアの関係はどう変わるか」
Yahoo!ニュース 有吉健郎
SmartNews 藤村厚夫
東洋経済オンライン 山田俊浩
デジタルの効果測定を考える
STEP1 ウェブクリッピングを始める前に
● 知っておきたいニュースの仕組み、ウェブ記事の分類
● Q&A企画……SNSも測定対象?/広告換算の注意点/外注のメリット ほか
STEP2 SNSの効果測定指標のつくり方
●ソーシャルリスニングの主な計測値と測定ツールの活用法
● 社会性・共創性・親和性で広がったPR事例
STEP3 ビジュアル活用と著作権・肖像権
●ビジュアルファースト時代の画像・動画利用の注意点
● 無料で使えるストックフォトサービスリスト
CASE STUDY
日清食品「10分どん兵衛」仕掛人が語る
「ネットで話題化し売上50%増に」