あなたは世界が熱狂する「eスポーツ」のポテンシャルを知っているか?【後編】

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「eスポーツ」とは、エレクトロニック・スポーツの略。個人やチームで行われるコンピューターゲームの対戦競技のことで、海外ではサッカーや野球を観戦するように、多くのファンが上級者のプレーに熱狂しています。近年では、賞金総額が22億円を超える大会が開催され、テレビ中継も行われるなどポピュラーな存在になり、その波は日本にも押し寄せつつあります。今回のデザイントークは、デジタルゲーム研究の第一人者で東京大学大学院元教授の馬場章さん、プロゲーミングチーム「デトネーションゲーミング」代表の梅崎伸幸さん、eスポーツ分野を扱う弁護士の藥師神豪祐さん、人気格闘技ゲーム「鉄拳」世界王者でプロゲーマーの中山大地さんをお迎えし、進行を日本eスポーツ協会の筧誠一郎さんが担当します。世界でスポーツマーケティングの一角を占め始めたeスポーツの現況と未来像をお届けするパネルディスカッションの後編です。

eスポーツのプロプレーヤーの能力は高い

筧誠一郎
一般社団法人日本eスポーツ協会事務局長、一般社団法人e-sports 促進機構理事、eスポーツコミュニケーションズ代表

筧:続いては、eスポーツのプロプレーヤーの実態について聞いていきたいと思います。プロeスポーツチームである「デトネーションゲーミング」には、スポンサーがついていますよね?

梅崎:はい、現在12社です。2014年は8社のスポンサーがついていたのですが、スポンサー料は8社で年間100万円程度という状況でした。それが、2015年にメディア露出が増えたこともあり、年間で合計6000万円集まり、今年は約1億円前後の収入が確定しています。
スポンサーからはCMや動画制作の依頼があるのですが、私たちには制作のノウハウがないため外注しています。発注先の制作会社もプロのeスポーツ選手を使ったことがないため、演出方法を毎回、議論しながら進めていますね。

筧:中山さんは、いかがでしょうか。

中山大地

中山:スロットメーカーの山佐とスポンサー契約を結んでいます。以前契約していた企業ともそうなのですが、試合では社名入りのTシャツを着て宣伝するようにしています。

筧:中山さんは、2015年に格闘ゲームの世界大会「EVOLUTION」で優勝されました。これは米国ラスベガスで行われ、参加人数が1万5000人にもなる大きな大会です。プロゲーマーとして周囲の人から見られることをどんなふうに感じていますか。

中山:僕は世界大会で3回優勝しているのですが、20歳で初めて優勝したときは日本に帰国しても誰からも注目されず、世界一になったことを誇らしいとは思いませんでした。ただ、昨年優勝したときは、家族総出でお祝いしてくれたり、周囲の人たちも連絡をくれたり、注目度が高まる中で、プロゲーマーに対する見方も変わってきたと感じています。

筧:大きな大会で優勝するためには、何が必要でしょうか。

中山:一番大事なことは、自分にプレッシャーをかけないことだと思っています。というのも、一度世界大会で、家族や友人たちからの応援を受けて「絶対に勝たなければ」というプレッシャーを感じてしまい、前日の睡眠が30分ぐらいしかとれずに試合に負けたことがありました。それ以来、どういう考え方をすれば100%の力を出して勝つことができるのか、いろいろ試すようになりました。

そして、たどり着いたのが「ひたすら賞金のことを考える」ということでした(笑)。ゲームを始めた15歳から今まで、ぼくはかなりの金額をゲームに投じてきました。だから絶対に賞金をとって投資した分を回収するぞ、ここで勝てば300万円もらえる、など、ひたすら集中する。それで気持ちはかなり落ち着くようになりました(笑)。

筧:面白いですね(笑)。

続いては、馬場先生に聞きたいのですが、若者がeスポーツに取り組むとどのような効果があるのでしょうか。

馬場章
東京大学大学院情報学環元教授

馬場:そもそもゲームに取り組む若者のモチベーションは、非常に高いことが分かってきています。高校の歴史の授業にゲームを取り入れる研究を行いました。クラスごとに、「従来の先生による普通の授業」「先生が出した課題をゲームで解決する授業」「歴史のゲームだけを行う授業」と分けて行い、授業後に歴史に関する関心や理解がどれだけ高まり、成績が伸びたのかを調査するというものです。

その結果、歴史に対する関心が最も伸びたのは、「歴史のゲームだけを行う授業」でした。ただし、ゲームだけでは、関心は高まっても、それが問題解決の能力にはつながっていないことも分かりました。最も良い成績を収めたのは、「先生が出した課題をゲームで解決したクラス」でした。残念ながら、「従来の先生による普通の授業」は、逆に歴史に対する関心を下げていました。

筧:ゲームを活用した学習効果は高いのですね。

馬場:「eスポーツのプレーヤー」と「ゲームをほとんどしない一般の人」の運動能力の差を調べた研究結果もあります。調査対象である一般の人の平均年齢は22歳と若く、運動能力は高いのですが、それでも、物事の達成力、障害を乗り越えて目的を遂行する力、思考力、集中力など、全ての項目でeスポーツプレーヤーの方が勝っていました。だから、みんなeスポーツをやってください(笑)。

ただし、この結果からはeスポーツプレーヤーがそうした能力を先天的に持っていたのか、それとも訓練によって獲得したのかは分かりません。この解明が進めば、プレーヤーの育成に大きな成果を得られるようになるでしょう。

とにかくeスポーツのプロプレーヤーの能力はすごく高いのです。

次ページ 「eスポーツを日本に定着させるために必要なこと」へ続く

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