埼玉県三芳町に115人の自治体担当者が集結 「自走する広報」とは

8月11日、埼玉県三芳町に115人の自治体担当者が集まった。『広報会議』2016年11月号では「広報のチカラで日本を元気にしたい」という思いのもと、広報ノウハウの共有やパネルディスカッションが実施された様子を紹介する。

8月11日、埼玉県三芳町に集結した115人の自治体担当者。

 

広報のチカラで日本を元気にしたい──。そんな思いを抱える自治体担当者が8月11日、埼玉県三芳町で開催されたイベント「埼玉広報会議」に参加しました。

このイベントは、私が制作する三芳町の広報紙『広報みよし』(2014年11月号)が「全国広報コンクール」で日本一となったことでクローズアップされ、「普通の公務員では有り得ない」経験をさせていただいたこと、そして全国から「広報を変えたい」「よくしたい」という問い合わせが日々寄せられていることから、経験や人とのつながりを皆さんに提供して、「広報のチカラ」「公務員のチカラ」で日本を元気にできないかと考えたことから端を発しました。

「自治体」というしがらみ、内部の調整、前例踏襲といった変化を求めない公務員体質という弊害。担当者レベルでは広報を変えたいと思っていても、なかなか変えることができないという悩みを抱えています。そこで、このようなイベントによって多くの担当者が集まり自治体を超えた交流ができ、たとえ異動し広報担当でなくなっても、全国の仲間がサポートし合うことができるのではないかと考えました。

当日は自費・自主参加だったにもかかわらず、北は新潟県柏崎市、南は長崎県平戸市など、全国から115人が参加し関心の高さを示しました。

「伝わる」広報写真には「共感を生む写真を撮ること」が必要

第一部は広報づくりやシティプロモーションについて、現役の自治体職員による研修会が開かれました。まず「『伝わる』広報写真」と題し、埼玉県毛呂山町の湯澤麻里氏が過去の広報紙面を飾った写真を参考に講演。「情報と魅力を込め、共感を生む写真を撮ることが重要」と話しました。続いて、モノクロの広報紙を低予算でフルカラーにリニューアルさせた埼玉県羽生市の増田悟氏が登場。内部の理解を得ながら紙面を変え、その結果住民が変わっていった過程を紹介し、「広報で頑張る人を応援し、人の魅力を伝え、つなげることが大切」と締めくくりました。

次に「クッキーのまち」としてブランディング、シティプロモーションを行う埼玉県久喜市の金澤剛史氏が登壇。「6割の人が久喜市は何もないと言っていた。“クッキー”を軸に地元の高校生や住民を巻き込む取り組みをした結果、『久喜市=クッキーのまち』というイメージとなった」と語り、「行政だからできることをし、人や企業をつなげていきたい」と説明。最後は私が『広報みよし』について紹介し「われわれが町の魅力を知り、まちに恋し、それを伝えることで、住民がまちのファン(Fun=Fan)になる。想いの詰まった広報という“ラブレター”を住民に届け、地域活性化につなげていきたい」と広報づくりについて話しました。

行動するのは行政ではなく住民

展示ブースには各自治体の広報紙や企画書などが並べられ、それを手にしながら意見交換をする姿が見られた。

第二部は東海大学の河井孝仁教授をコーディネーターに、「『まちに恋する』地域と共感をデザインするPR戦略とは」と題したパネルディスカッションを実施。茨城県広報監の取出新吾氏、長崎県平戸市の黒瀬啓介氏、栃木県那須塩原市の浅賀亜紀子氏、私の4人が、「動画・PR」「ふるさと納税」「シティプロモーション」「広報」の立場から議論し、自治体職員とは思えないきわどい話もたくさん飛び出しました。

冒頭、河井教授から「『還元率の高さばかり追求する自治体のふるさと納税は偽物だ』とはっきりと言い切れる黒瀬論とは」という投げかけが。それに対し、「今、日本に求められているのは地域に付加価値をつけること。行政が『やってあげている』のではなく、地域が自走できる仕組みをふるさと納税でつくらなければならない。それが広報でもある」と黒瀬氏は答えました。

公務員、自治体が思わず共感してしまう疑問、「この人をなぜ載せるのか」「なぜこの企業を取り上げるのか」など「広報の公平性」についての話も白熱。これに対し「その人やその企業でなければならない理由をしっかりと説明できる理論武装と大義名分が必要。取り上げた結果、どのような効果が生まれ、住民に還元できるのかを明示できれば公平性は乗り越えることができる」と私が説明しました。

続いて、広報の技術的な向上が地域を応援することにつながるのかという話に。「上辺だけでまちを売り込むのでは片手落ち。できあがったきれいな広告物より、何人の想いを載せられたのかというプロセスが重要」と浅賀氏。年に一度、広報コンクールへの出品用に特集を組むような自己満足の広報紙に警鐘を鳴らしました。

参加者からの「広報は黒子に徹するべきではないか」という質問に対し取出氏は「私は茨城県のPRにつながるか、という効果を考えたうえで表に出るようにしている。露出することで新しいことができたり、つながりが生まれたりすることだってある」と述べています。

イベント終了後、参加者の一人に感想を聞くと「まちを長い目で見なければいけない考え方が新鮮だった。『広報は人を幸せにできる』という言葉が印象的」との声があり、イベントに関する手応えを感じることができました。

夜な夜な頭を悩ませ「これだ!」というラブレターをつくっても、手に取って読んでもらわなければ想いは伝わりません。「ラブレター=広報」「恋している相手=住民」とした場合、「いつ」「どこで」「どうやって届け」「そのあとどうしたいのか」まで考える必要があると思います。想いに共感し、ラブレターを読んだ人が「まちに恋をして好きになる」。行政が何かをするのではなく、住民自らが動く「自走する広報」が求められています。

佐久間智之(さくま・ともゆき)
埼玉県三芳町秘書広報

元バンドマン。2002年入庁。税務課、介護保険担当を経て広報担当となり4年で広報誌が日本一に。予算ゼロ円の事業を企画立案実行し、戦略的に町の魅力を配信中。

10月1日発売の『広報会議』2016年11月号にて掲載中。本誌では、以下の内容についても聞いています。

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〈特別編〉次世代メディアのキーパーソンたち
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東洋経済オンライン 山田俊浩
 

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