芸人としての人生の蓄積が活きた
前回グランプリを受賞しました、お笑い芸人の今野と申します。僕は相変わらず、ザ・フライというトリオで売れない芸人を続けております。
今回は編集部さんから応募のポイントやどのように取り組んだか書いてほしいと依頼されました。ただ、プロの方とか広告業の志望者向けに、昨年偶然グランプリを獲っただけの男が語れることは何もないので、僕のような門外漢を対象に役立つと思えることを書きます。
まずオススメしたいのは、あきらめることです。プロのコピーライターの方も参加するので、勝率は限りなく低いです。
一次審査を通過することでさえ、困難だと思います。その理由は明確です。アマチュアはどういうキャッチフレーズやCMが優れているかを判断する基準がないので、広告としてダメなものを良いものと勘違いし、悦に浸ってしまいます。
いくら時間を割いても、良いなと思うものが書けても、それは本人以外にとっては価値がない言葉に終わっているのです。
僕も受賞した作品以外は全て一次審査で落ちています。思い返すと、あの頃は悦に浸っていました。
また、「こうやったらコピーを書けるようになる」「こういう勉強したら判断基準が養える」という方法は教則化されているものの、それを会得するには当然ながら時間も労力もかかります。したがって今回の宣伝会議賞で初めてキャッチフレーズを考え始めるという方が受賞することは、不可能に近いのです。
「え?キャッチフレーズって言葉遊びでしょ?勉強なんかしなくてもいけるでしょ」と思っている方がもしいたら、その時点で間違っているので、止めましょう。あなたは数年前に初めて挑戦した僕のように、図々しいだけです。
というわけで応募の理由が賞金しかないという方は、そっと『宣伝会議』を閉じ、パチスロガイドや日経マネーを買いに行きましょう。
ここからは応募の目的が賞金だけではないが、広告業志望ではないという、奇特な方に向けて書きます。
僕が応募を振り返ってみて奇跡的に結果を出せたのは、普段やっていることを何とか広告表現とつなげられたからだと思います。僕は芸人として普段コントをつくっています。そのシチュエーションを考える力や、フリとオチを意識するという習慣が、受賞に至ったCM台本を書く際に活きたのだと思います。今から広告のことを学んでも、知れることはわずかです。でもそのわずかを、今までの人生の蓄積と掛け合わせることで、ミラクルが起こせるかもしれません。
もっとも、大半の努力は報われず終わると思います。異業種ながら10年以上挑戦を続けて、まだ受賞に手が届いてない人もいると聞きますし。かくいう僕も、お笑いでは相変わらず、何の結果も出せていません。それでも続けたいから続けているだけです。ちなみに僕の相方の一人、雨ちゃんは毎日バイオリンを6時間練習しています。その情熱がなぜお笑いに向かないのか謎なのですが、何にせよ僕は報われないかもしれないことに情熱を捧げる人を尊敬しています。
他人から「バカなことに時間注いで」と嘲笑されるような人が、次の文化をつくっていくと思うのです。永遠に実らないかもしれない努力をし続ける覚悟のある人の言葉が、多くの人の心を鷲掴みにする瞬間を心待ちにしています。
CM:ジェイティービー
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【親子】篇
父親がリビングにて寝転がってテレビを見ている。
娘が掃除機をかけながら父親の前まで来る。
娘:「お父さん、そこ掃除するから」
父:「ああ」
娘:「旅行でも行ってきて」
父:「え?」
(娘の手から父親の手に商品を手渡されるカット)
驚く父親を尻目に掃除機をかける娘
NA「大切なあのひとに、JTBの旅行券を贈ろう」