箭内さん!いったい、どこで洋服を買っているんですか?

—派手な服を着るようになったきっかけは何だったんですか?

元々たくさん持ってはいましたが、暴走のするきっかけは、元博報堂のクリエイティブディレクター・福寿誠さんです。僕が会社に入って何年目かのときに、二人でプレゼンに行く機会があって、タクシー乗り場で待ち合わせたんです。

僕は、初めてのクライアントのプレゼンだからちゃんとして行かなきゃと思って、スーツを着てネクタイを締めて行ったら、タクシーの中で福寿さんに「なんだその格好」「そんな格好のやつの話、誰が信用するんだ」と言われたんですよね。僕の目を見ずに、前を見ながら。それからは、「どういう服装をして、何を言うか」ということを、きちんと狙いとして意識し始めるようになりました。

世の中は、“ありのまま”が好きじゃないですか。“さりげない”とか“素顔”とか、“そのままの君で”とか。だけど僕はそうは思わない。ありのままで勝負できるならそれに越したことはないけど、なりたい自分と現在の自分が違うのであれば、そこに近づく、たどり着くための努力をしないといけないんじゃないかと思うんです。

僕にとっては服装を意識することが、なりたい自分になるための、起爆剤のひとつだったのかもしれません。今の自分じゃない自分になろうとすること、そしてそのための作戦を考え実践すること、それはこの世界では、やっぱり避けては通れないことだと思う。

日本人は特に、取り繕うことを忌み嫌う面がありますよね。表と裏が違うことを美しいとしない。表も裏も同じものが好ましいという人が多い気がします。だからこそ、「自分をつくることを通す」ことの難しさもすごくあります。「お前って、自分をつくってるんだ?」って周りから言われることもあります。でもクリエイターとして、ビジネスパーソンとしての自己ブランディングは、必要なものだと僕は思います。

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イチゴの匂いがする、風とロックの名刺。

洋服だけではなくて、風とロックの名刺には、イチゴの匂いが付いています。それも自己ブランディングのひとつかな。初対面の人とも「イチゴの匂いが付いているんですよ」と、匂い付きインクの話題になったり、「イチゴが好きなんですか?私もです」と盛り上がったり、そこでコミュニケーションのきっかけをつくれるんですよね。

相手の中に自分の第一印象をつくって、その後、それを引き受けたり、裏切ったり、塗り替えたりしていく。最初にしっかりとした第一印象をつくるというのは、相手が自分を覚えてもらいやすくなって、自分が得するだけじゃなく、相手にとっても楽に覚えられるというメリットがある。覚えやすい自分を提示することは、相手に対する最大の親切というか、心遣いなんじゃないかなとも思います。

最近はこういう話もだいぶできるようになってきましたけど、昔は「それ、狙ってやってるの?」「お前、あざといな」って必ず言われるから、やりづらいところもありました。でも、狙いが100%っていうわけでもないんです。やっぱり蛍光色のシャツを着ると単純に嬉しいですし、好きはすごく好きなんだと思います。そこに自分でブレーキをかけるのを止めたというか、アクセルを倍の量、踏むようになった。

—自分の好きなこと、“長所を伸ばす”ということに近いでしょうか。

“剪定していく”ような感じですね。そうじゃないところをハサミで切って、見せたい部分に太陽がいっぱい当たるようにして、大きく育てていく。「その洋服、どこで買ってるの?」って聞かれることって、名刺の話と一緒で、そこですでに関係が始まっているということですよね。さらには「箭内さんが好きそうな服、あそこに売っていたよ」って教えてくれる人も出てきて。それは、仕事上のコミュニケーションということだけじゃなくて、なかなかいい洋服が見つからなくて困っている時には、実利としても助かります(笑)。

—そうやってフラッグを立てておけば、リマインド機能にもなりますよね。派手な洋服やイチゴの匂いの名刺を見て、箭内さんのことを思い出すきっかけにもなるかもしれない。

そうかもしれないですね。そういう意味でいうと、僕は“私服”を持ってないんです。全部が衣裳。靴下も、パンツも。プレゼン用、出演用、撮影用、企画するとき用と、それぞれに衣裳がある。洋服は全部、会社に置いてあって、自宅のクローゼットには服がない。ジャージで会社に行って、会社で着替えます。

誰だってそうだと思いますが「今日は撮影で石原さとみさんに会うんだよな」「石原さん、どんな格好をしていったら突っ込んでくるかな」「この前と違う格好だって思ってもらえるかな」ということは気にするので、行く場所や会う相手、仕事によって、1日に何度も着替えることもあります。挑む気持ちで、日によって変えている。

そういえば昨日、タグボートの岡(康道)さんと話した時、岡さんは川口(清勝)さんや多田(琢)さんから「私服はやめてください。お願いだからいつもスーツでいてください」と言われたことがあると言っていました。それもタグボートのブランド戦略ですよね。

とはいえ、2011年の東日本大震災以降は、今までにないTPOが増えたから、黒い服を着ることも多くなりました。赤い服も気を遣います。ドクロ柄の服をたくさん持っていましたが、それもまだ早いかなって思ったり。そういうことも考えるようになりましたね。

次ページ 「箭内さんの自己ブランディングの考えは、CMづくりにも影響しましたか?」へ続く

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箭内 道彦
箭内 道彦

1964年 福島県郡山市生まれ。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」リクルート「ゼクシィ」をはじめ、既成の概念にとらわれない数々の広告キャンペーンを手がける。また、若者に絶大な人気を誇るフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行、故郷・福島でのイベントプロデュース、テレビやラジオのパーソナリティ、そして2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストなど、多岐に渡る活動によって、広告の可能性を常に拡げ続けている。東京藝術大学非常勤講師、青山学院大学非常勤講師、秋田公立美術大学客員教授、福島県クリエイティブディレクター、郡山市音楽文化アドバイザーなども務める。

箭内 道彦

1964年 福島県郡山市生まれ。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」リクルート「ゼクシィ」をはじめ、既成の概念にとらわれない数々の広告キャンペーンを手がける。また、若者に絶大な人気を誇るフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行、故郷・福島でのイベントプロデュース、テレビやラジオのパーソナリティ、そして2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストなど、多岐に渡る活動によって、広告の可能性を常に拡げ続けている。東京藝術大学非常勤講師、青山学院大学非常勤講師、秋田公立美術大学客員教授、福島県クリエイティブディレクター、郡山市音楽文化アドバイザーなども務める。

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