オムニコムによるマクドナルドのアカウント奪取から見えてくる「未来のエージェンシー」とは?

1.デジタル業務に関するインハウス化とアウトソーシング化

オムニコムがメディアアカウントを獲得した背景には、デジタルのメディア業務の複雑化にともない、クライアントがトレーディングデスク業務をインハウス化していく動きがあったことが指摘されています。

クライアントによるインハウス化は、デジタルの制作業務や実行の部分ではスピード化と効率化が進んでいましたが、メディア業務においては大企業やブランドにとって負担になることは否めません。特に、優秀なエキスパートを雇おうとすると、人件費の高騰だけでなく、人材の確保も困難になります。

そこでオムニコムは、このインハウス化の流れに対して、自社にアウトソーシングする方がスケールメリットを生かすことができ、プロフェッショナルな人材を確保しやすく、結果的にも安価で効率が良くなるというベネフィットを強調したようです。そこがクライアントから評価され、今回のアカウント獲得につながったのです。

テクノロジーが進化し、デジタルチャネルが複雑化する中で、その変化に対応した人材確保はエージェンシーにとっても重要事項です。なぜならプロフェッショナルな業務に対応できるスケールをグループとして確保することだけでなく、エージェンシーはクライアントソースが豊富なほど、デジタルメディアのデータやノウハウが蓄積されるという相乗効果があるからです。

そういう意味では、デジタルを中心としたメディア業務は、勝ち組はより有利に、負け組はより憂き目に合う方向にあると言えます。この考え方はかつてのテレビのように、メディアの扱い金額のスケールがエージェンシーの力を示していたことと一見同様に見えますが、その背景には、デジタルメディアにおけるクライアント側からの要求がスケールのみならず、その精度やプロセス、データ活用にも及んでいることが異なります。

2.同一ホールディンググループにおけるエージェンシーチーム

最近、複数のヒーロー映画を組み合わせた『アヴェンジャーズ』や『バットマンvsスーパーマン』のような、単一のキャラクターをフューチャーするのではなく、強力なコンテンツを集合的に活用する映画の興行成績がより見込めるようになっています。これらの映画と同じように、エージェンシーもメガエージェンシーによるワンストップサービスよりも、エキスパートによるチーム編成の方が重要になっています。

特長のある中小のクリエティブ・ブティックや、デジタルやデータに強いメディアエージェンシーがチームを組んでクライアントのマーケティングに取り組むということは、ビッグクライアントがプロデュースするドリームチームという夢想ではなく、今やホールディング会社が自らのグループ内で売り込むマーケティングサービスとなりつつありのです。

この点、WPPはデジタルの重要性に早々に気付きながらも、チーム編成の売り込みについてはオムニコムの方が一歩進んでいるようです。マクドナルドのアカウント奪取が好例ですが、同様のサービスモデルが一度確立すると、クライアント側から似たような相談がエージェンシーに投げかけられる機会が増えるでしょう。

最近、デジタル化を推進するコンサルティング会社がクリエイティブ・ブティックを買収する動きがニュースになっています。これも単純にコンサル会社がエージェンシービジネスに参入したというよりも、マーケティングサービスをビジネスのソリューションとして捉えている、つまりクリエイティブも含めたマーケティング全体のソリューションが「チーム編成」としてクライアントから求められるようになったからだと言えます。

次ページ 「3.データドリヴンなクリエイティブプロセス」へ続く

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鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)
鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

鈴木健(ニューバランス ジャパン マーケティング部長)

1991年広告会社の営業としてスタートし、ナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランス ジャパンに入社し現在に至る。ブランドマネジメントおよびPRや広告をはじめデジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当。

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