「書けなくても、書いてきた」 — 言葉のプロ2人は「書く」力をどう磨いてきたのか

二人でそれぞれ、去年の課題に挑戦してみた

※JTBの過去課題原稿。

阿部:第53回宣伝会議賞の課題の一つ、JTBの「大切なあの人に『JTBの旅行券』を贈りたくなるアイディア」という課題を、2人でそれぞれ考えてみました。

僕はまず、「問いを深掘る」という行動をします。先ほどの白岩さんの話でいうところの、「よく考える」ですね。どのように深掘るかというと、「『大切なあの人』って、誰?」というところです。お父さん、お母さん、恋人、恋人の家族、兄弟姉妹、先輩・後輩……。「一緒に行こう」と奥さんに旅を贈るのか、上司の誕生日祝いなのか、両親の記念日に旅を贈るのか。自分の頭の中で考えるだけでは限りがあるので、友だちに聞いてみたり、普段見ているドラマや小説を参考したりすることもあります。

次に、「大切な人に『旅行券を贈る』って、どういうことだろう?」と考えます。旅行券を贈ることは、「行きと帰り」を贈ることであり、「特別な日」を贈ることであり、「目的地を選ぶ自由」を贈ることでもある。ちょっと見方を変えれば、「誰かを誘うための言い訳」とも捉えられるかもしれない。「旅行券を贈る」という言葉の中には、そんなふうに、いろいろな広がりがあると思うんです。その上で、僕は次のようなコピーを考えました。

「ね、どこ行こっか?」と、妻がすでに楽しそうだ。

旅行券を贈ることを「時間を贈ること」と捉えました。行き先を選ぶ時間も含めて、「時間」をプレゼントしているのだと思います。

たまには母に、母を休んで欲しくて。

旅行券を贈ることを「解放を贈る」と捉えました。いつも頑張っているお母さんに、ちょっと休んで欲しいという思いを込めて贈るシーンを想定しました。

お歳暮は、地球です。

旅行券を贈ることを「選択肢は無限」と捉えました。そのチケットがあれば、どこに行くことも選択できる。つまり、地球を贈るとも言えます。

こうして課題の本質を考え、企てを言葉に入れる試行錯誤を繰り返し、最後に「てにをは」はどれが適切かを検証します。「てにをは」違いの別バージョンは、案には入れません。根底にあるアイデアや企てが同じコピーは、審査員には「全部同じコピー」とみなされてしまいます。

白岩:アイデアがすごくいいものなら、語尾のような細かい部分は関係ないですもんね。阿部さんが、自分が書いたコピーを選ぶときの基準はありますか?

阿部広太郎さん

阿部:「短くて強い」ものを意識しています。最後3つくらいで悩んだときは、友だちや先輩に見てもらって、率直な意見を聞くこともありますよ。

白岩:あれこれと考えているうちに、「なんとなく表現できているつもり」になってしまうことが結構あるので、コピーの対象となっているものやことについて、まったく知らない人に聞くことも大事ですよね。

では次に、僕が考えたアイデアをお見せします。僕はコピーライターではないので、表現よりも「考え方」を見せられたらなと思います。

旅行好きな人は、一度でも多く旅行に行きたい。

この課題を見たとき、旅行は、「よく行く人」と「あまり行かない人」の2タイプに分かれると思ったんです。普段行かない人を行かせるより、よく行く人に響く言葉を考えたいと思いました。

「旅行に行こう。」は嬉しいけれど、プランは一緒に立てたいと思うのが女性です。

これは、「男性誌限定の広告」として展開するイメージで書きました。旅行券って、「旅行をする」ということは決まっているけれど、中身(プラン)は決めないプレゼントなんですよね。そこに着目したコピーです。女性は旅行好きな人が多い、というのは僕の勝手な思い込みかもしれませんが(笑)、「プランは一緒に立てたい」と思っている人は多いんじゃないかなと。そして、男性にターゲットを絞ることで、より強気なメッセージを打ち出せると思ったんです。

遠距離恋愛をしている友だちにあげた。すごく喜んでいた。

調べたところ、旅行券は新幹線のチケットとしても利用できるようなんです。だったら、遠距離恋愛をしている人たちに対して「JRの切符になるよ」という提案もできるなと思いました。

阿部:これ、いいですね! 遠距離恋愛中の恋人に会いにいくことも、旅行。発見があります。僕は、ちょっと踏み込んで調べるだけで、他の人と視点の差がつけられると思っているんです。このコピー、思いつく人は意外と少ないんじゃないかなと思います。課題のビジュアルだけを見ていると、「お父さんとお母さんが二人で!」という発想に捉われてしまいそうですが、旅行ひとつとっても、本当にいろいろなアプローチがありますよね。

次ページ 「賞は、本気で獲りたいと思った人が獲るもの」へ続く

前のページ 次のページ
1 2 3
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ